いしわたり淳治×狩野英孝 特別対談:作詞家が分析する、50TAの歌詞の面白さとは?

いしわたり淳治×狩野英孝 特別対談
いしわたり淳治『言葉にできない想いは本当にあるのか』(筑摩書房)
いしわたり淳治『言葉にできない想いは本当にあるのか』(筑摩書房)

 コラム集『言葉にできない想いは本当にあるのか』を刊行した作詞家/音楽プロデューサー・いしわたり淳治と、アーティスト“50TA”こと狩野英孝の初対談が実現した。

 きっかけは、昨年に『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)で発表された50TAの3年ぶりの新曲「ラブアース」をコラムの中でいしわたりが称賛していたこと。いしわたりは、今年初頭に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の人気企画「2020年のマイベスト10曲」でも、同曲を7位に選出している。

 初対面の2人のクロストークは、いしわたりが考える50TAの魅力、格好よさと面白さの関係、音楽とお笑いに共通する「言葉の使われ方の進化」など、抱腹絶倒なやり取りの中にクリエイティブなヒントがたっぷり詰まった対話になった。(柴那典)

「ラブアース」の衝撃

狩野英孝
狩野英孝

――狩野さんは50TA「ラブアース」へのいしわたりさんのコメントを知って、どんな風に感じましたか?

狩野英孝(以下、狩野):『関ジャム』と『ロンドンハーツ』の両方のスタッフをやってるテレビ朝日の藤城さんという方がいらっしゃるんですけれど、僕はその藤城さんから「いしわたりさんが褒めてたよ」って聞いたんです。でも最初は「え? また新たなドッキリが始まった?」って思って。そこから『ロンドンハーツ』の僕をフィーチャーした回でコメントをいただいたり、『関ジャム』で名前を出してくださったりして。ほんとに嬉しいんですけれど、ただ正直、まだどこかでちょっとドッキリを疑ってる自分がいるんですよね。それは今回の対談も含めてなんですけど(笑)。

――たしかに『ロンドンハーツ』のドッキリ企画でこういうインタビュー風景ってありますもんね。

狩野:長時間かけてやる壮大なドッキリもありますからね。でも、今回「あ、これはドッキリじゃないかも」と思ったのは、今、僕が座る席を自分で選べたんですよ。ドッキリの場合って、隠しカメラの位置の関係で「ここに座ってくださいね」って座る場所を誘導されたりするんで。これはマジの対談だな、取材だなっていう確信に変わりつつあります。

――いしわたりさんが50TAの「ラブアース」を聴いたきっかけは?

いしわたり淳治(以下、いしわたり):もちろん『ロンドンハーツ』を観てですけれど、聴いた瞬間、衝撃を受けました。2回聴きましたもん。

いしわたり淳治
いしわたり淳治

――どんな衝撃があったんでしょうか?

いしわたり:正直、コロナ禍で沢山の人を勇気づけようというテーマで多くの人に当てはまるような曲を書くとなると、どうしても言葉が広くなりがちなんです。最初はそういう言葉の広い曲だなと思って普通に聴いていたんですね。そうしたら最後に〈何コレ?すっごーい!〉がやってきた。たとえば誰かを勇気付けるとか自分を鼓舞するというテーマで、力が湧いてくるっていうことを歌う歌は沢山あったけれど、どれも湧いてくるまでの過程の歌しかなかったんですね。本当に湧いてきたんだったら、その後のコメントがあってもいいわけじゃないですか。そこを書いているというのに衝撃を受けたんです。

 たとえば料理番組でも、料理を作るところだけを見せて終わるんじゃなくて、最後に食べて感想を言う。それと同じで、今までミュージシャンが書いてきたのは途中で終わってたような歌が多かったんだなって思って。そういう衝撃でした。

狩野:そこまで深く考えてくださって、ありがとうございます。

――狩野さんはあの曲をどういうきっかけで書いたんでしょう?

狩野:あれもドッキリだったんですけど、コロナ禍の緊急事態宣言の最中に「4日後までに曲を一曲仕上げてください」って言われて。「え? いや、4日って……」と思いながら、でも緊急事態宣言で何にもやることもないし、「じゃあやってみようかな」みたいな感じで、ギターを弾き語りしながら急遽作りました。

――〈何コレ?すっごーい!〉っていうフレーズも最初からあったんですか?

狩野:そうですね。淳さん(編集部注:『ロンドンハーツ』MCを務める田村淳)に無茶ぶりされたときに出てきた言葉なんですけど。僕、漫画とか映画でも、もともと弱かったヤツが何かの力を手に入れて強くなっていくストーリーが好きなんですよ。たとえば主人公が伝説の剣を手にして「な、なんだ、この力は……!?」みたいなことを言うシーンが好きで。そこから「みんなで力を合わせれば不思議な力があふれてくる……何コレ?すっごーい!」になったという(笑)。

いしわたり:普段からそういう感覚があったってことですか?

狩野:そうですね。たとえばネタを作っても、思っていたところで笑いが来なくて、全然違う予想外のところでドーンってウケたりする。それも「何コレ?すっごーい!」で(笑)。いつも予想外のことが起きるのが僕の人生なんです。

50TAが“50TAらしさ”を手に入れた瞬間

いしわたり淳治×狩野英孝

――いしわたりさんは50TAというアーティストをどういう風に評価してらっしゃるんでしょうか。

いしわたり:僕、今日朝から50TAの曲を全部聴きかえしてきたんですけれど、50TAは、実は、最初の頃は“J-POPあるある”に聴こえてたんですよ。

狩野:はいはいはい。

いしわたり:「J-POPってこうなりがちだよね」というので笑いをとる芸人さんっているじゃないですか。そういうものだと思っていたんです。面白いワードも沢山入っているし、格好良くやりたいんだけどやりきれない格好悪さみたいなものが笑いになっていたりした。でも、ある時期から50TAが“50TAらしさ”を手に入れた瞬間があったんだと僕は気付いてしまって。

狩野:えぇ!? 何ですか?それは。

いしわたり:なんだろう……たとえばアマチュアに対して「プロみたい」って言うのは褒め言葉じゃないですか。でも、プロに対して「プロみたい」と言ったら悪口になりますよね。そういう意味で、最初の頃の50TAはプロのアーティストみたいなことをしている時期だったと思うんです。でも、それを超えて、50TAがプロとして50TAをやり始めた瞬間があったと僕は思っていて。

狩野:いつですか? 自分でも気付かないポイントなんですけれど。

いしわたり:おそらく「PERFECT LOVE」のあたりは、まだ初期なんですよ。

狩野:初期ですよね。一発目のほうですね。

いしわたり:で、「Over the rainbow」あたりから徐々に変わってきて、その真骨頂が「エキサイティング」だと思います。

狩野:なるほど! ほんとにおっしゃるとおりです。

――狩野さんは「Over the rainbow」についてはどういう実感があったんですか?

狩野英孝
狩野英孝

狩野:僕、青春時代にずっとJ-POP聴いてたんですよ。本当に大好きで、学生の頃から毎週音楽番組を観てオリコンチャートの1位をチェックして「ああ、この歌いいな、明日CDショップ行こう」って細長いシングルCDを買いにいって。そうやってずっとJ-POPを聴いてきたんで、そういう中でいろんなアーティストさんの癖とか技とかテクニックを格好いいと思って、自分でもそれをやりたくなっちゃうんです。そうなってきたのが「Over the rainbow」くらいの時で。あの曲の決め手は「♪オーバーザレイ」「ンボー」なんですけど――。

いしわたり:(笑)。

狩野:いや、これね、みんなに「おかしいよ」って言われるんですけど、僕の中では本当に格好いいと思ってやってるんですよ。僕のイメージはMr.Childrenの「シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~」なんですよ。「♪ねえ 等身大の愛情で」というところを聴いて「“愛”と“情”で区切るんだ!? 格好いい!」みたいに高校時代に思ったのがあって。だから「♪オーバーザレインボー〜」って普通に区切って歌うんじゃなくていいんじゃないか、みたいな。

いしわたり:でも「レインボー」を「ンボ―」で区切る人、なかなかいないと思いますよ(笑)。前に「ノコギリガール ~ひとりでトイレにいけるもん~」でも〈チャレンジンジンジ〉ってあったじゃないですか。

狩野:あります! 「ンジンジ」。「ん」が好きなのかな? 自分では気付かなかったですけど、確かにそう言われると「ん」で区切る癖ありますね。

いしわたり:ありますね。そこがいいんですよ、きっと。他の人は絶対やらないですから。

――「エキサイティング」についてはどうでしょうか?

いしわたり淳治
いしわたり淳治

いしわたり:「エキサイティング」も、いわゆる“力が湧いてくる”系の曲なんですよね。〈身体中の血が騒ぎ出す〉とか、さんざん力強く歌って、でも〈予定…〉って終わるんです。この、サビの終わりにある余計な三文字によってリアリティとオリジナリティが生まれる。これはなかなかできないと思います。こういうところがすごいなと思うんですけれど、これってどこから考えてるんですか? 最初から〈予定…〉って入れるつもりで書いてるんですか?

狩野:全然。あの曲はライブが決まって、そのために新曲を作ってくれって言われて書いたんです。せっかくお客さん入れてライブをやるのであれば、みんなが「イェーイ」って言える曲、みんながエキサイティングになれる曲がいいなって書き始めて。そこから「負けないぞ」とか「頑張るぞ」みたいな歌にしようと思って〈勝てないやつと分かりながら 恐れず牙を向けてやる〉って書いていくうちに、だんだん自信がなくなってきて。「俺、そういう時は本当に行くかなぁ、怖いなぁ」って。言い切っちゃうと嘘になっちゃうから〈予定…〉って最後につけとこう、って。

いしわたり:ファイティングポーズはとってるよっていう。

狩野:そうそうそう(笑)。

いしわたり:素晴らしい。こんなこと考えるミュージシャンいないですよ。

狩野:本当ですか!? 嬉しい。

いしわたり:やっぱり、ミュージシャンってみんな真面目じゃないですか。ふざけるプロじゃないからふざけられないというのもあると思うんですけれど。そういう意味で50TAは可能性の塊だと思いました。

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