「やってみたい事がたくさんある」 『ハチミツとクローバー』はぐみ、クリエイターに刺さる言葉たち
「どうしてこの世は『持つ者』と『持たざる者』に分かれるのか」(第9巻)
全10巻からなる『ハチミツとクローバー』。終盤は芸術に携わる人たちのさまざまな心の叫びが聞こえてくるようだ。
あらゆる芸術の才能を持つ森田忍。ちょっと風変わりだけど彼の父もまた才能にあふれた人だった。一方で、忍の兄・カオルと、父の幼なじみで親友の根岸は「持たざる者」。忍を見る誇らしげな父の視線。父は息子たちを同じように愛していたけれど、忍のことはその才能の分も愛していたのかもしれない。
持っている者は気がつかないけれど、持っていない者はその「差」に敏感だ。自信のなさが、その差をいっそう際立たせる。気のせいかも知れないことまで勘ぐってしまう。
しかし、持つ者というのは本当に存在するのだろうか。持つ者もまた、別の誰かを見て自分が「持たざる者だ」と感じているかもしれない。ただ、それに気がつくには心の余裕が必要だ。
生きるのも、創ることも、辛く楽しい
創造しなくても人は生きていけるだろうか。中には息をするように創作物を生み出す人もいる。しかし、クリエイターというのは芸術の分野だけではなく、さまざまな領域に存在する。テクノロジー、会話、家族……人は、生きていれば、常に何かしらを創りだすとも言える。
苦しく、辛いこともある。ただ、何かを生み出すときには喜びもある。はぐみのセリフはは、そんな“クリエイター”の誰もが経験する生みの苦しみを叫んでいるからこそ、人々の胸を打つのかもしれない。
(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))
■書籍情報
『ハチミツとクローバー』全10巻完結(クイーンズコミックス)
著者: 羽海野チカ
出版社:集英社