「アート」はビジネスパーソンに必要なのか? ビジネス書界の「アート思考」ブームを考える

「アート」はビジネスパーソンに必要なのか?

 「真・善・美」と古代の哲学者より、人間の普遍的な価値観が語られるように、現代でも日常生活で、音楽や美術に癒やしを求める人も多いのではないだろうか。そして、近頃では、ビジネス書の世界でも、ロジカル思考、デザイン思考に続き、「アート思考」への関心が高まっている。

 山口周氏の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)がベストセラーにもなったが、『なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか?』岡崎 大輔(SBクリエイティブ)、『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』ニール・ヒンディ(クロスメディア・パブリッシング)、『アート・イン・ビジネス -- ビジネスに効くアートの力』電通美術回路編(有斐閣)などなど、ビジネス書出版社のみならず、翻訳もの、そして専門書出版社までもが類書を発行し、いまや美術は、教養としてもビジネスへの応用としても外せない1ジャンルだ。

 本稿では、今年2月に発売され、各書店・ネット書店のランキングでも好調の『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』末永幸歩(ダイヤモンド社)を取り上げ、「アート思考」とはどのようなものか考えてみたい。

 まず、小中学生にアンケートをすると、小学生の好きな科目ランキングの3位は「図工」であるという。しかし、中学生になるとその順位も変わり、なんと「美術」は人気の下落幅で1位になってしまう。どうやら私たちは、書名にもある「13歳」になる(つまり人間は大人になる)と、アートが苦手になってしまうらしい。

 大人になって美術館に通っていても、実際の作品にはあまり目を向けず、解説を読み何となく分かった気になり、作品を見たと言う事実をSNSに挙げるだけになってしまっている人も多いのではないだろうか。それも悪くはないが、本当に作品を理解し、芸術を楽しんでいる訳ではない。

 それでは、そもそも芸術とはなんだろうか。芸術から私たちはどんなことを学べるのだろうか。『13歳からのアート思考』では、パブロ・ピカソ、マルセル・デュシャン、アンディ・ウォーホルらの作品を鑑賞しつつ、彼らの作品が美術史に与えた影響から、「アート思考」を解説していく。

 「アート思考」とは、簡単に言ってしまえば、自分なりに物を見て、自分なりに考え、自分だけの答えを見つけ出す思考法である。ピカソやデュシャンの作品には、素人目には上手いとも芸術的とも思えない作品もある。では、なぜ自分はそう思うのか。自分のアートの定義とは何か。それを深く追求していくと自分なりの答えにたどり着く。

 暑い夏の日、雨上がりの青い空に浮かぶ大きな雲はどんな形をしているだろうか。時間あたりの降雨量や温度から、観察や実験を繰り返し、法則を導いていくのは科学だ。その雲は何に似ていて、どの部分、どこの色からそう思うのかを深く考えいくのが「アート思考」である。

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