『僕のヒーローアカデミア』デクを助けるために戦う爆豪の心情 ヒーローとヴィランの思想戦、その結末は?

『ヒロアカ』が挑むヒーロー像の再定義
『僕のヒーローアカデミア』2巻
『僕のヒーローアカデミア』2巻

 中でも素晴らしかったのが、デクを助けるために身を挺して戦う爆豪の姿だ。爆豪はデクの幼馴染で、当初は無個性のデクにキツく当たる、いじめっ子だった。その意味で、本来なら読者が感情移入しにくい悪役的存在なのだが、本作では爆轟のいじめを「自尊心の強さゆえの余裕の無さ」から生まれた「弱さ」として描き、そんな爆豪が、デクを認めることで、少しずつ成長していく姿を描いてきた。

 この巻では爆轟が、自分を勘定に入れず行動できるデクの強さが不気味で遠ざけたくて「理解できねェ自分(テメー)の弱さを棚上げして」「虐めた」とオールマイトに(懺悔するように)告白する場面が回想される。

 爆豪は、デクを虐めてしまった後悔が「心の傷」となっている複雑なキャラクターで、いじめられていたデクの方が爆豪のことを心配しているように見えるのが本作の独自性だ。『ヒロアカ』は全員主役の群像劇と言ってもおかしくないぐらい各登場人物の心情を丁寧に掘り下げている。それは被害者だけでなく爆豪のような加害者も同様で、だからこそ善悪に対する踏み込みが重層的で奥深い。

 社会に虐げられてきた死柄木たちヴィランの言葉は圧倒的で、ヒーローたちの正義はみるみる霞んでいく。しかし、そこに加害者としての過去から目を逸らさず、それを踏まえた上でヒーローになろうと努力している爆豪の心情をぶつけることで、綺麗事では終わらない新しいヒーロー像の再定義を試みている。この悪戦苦闘する姿こそが『ヒロアカ』の魅力だ。

 あとがきによると、次巻でこのエピソードは一区切りつくそうだが、この長く続いたヒーローとヴィランの思想戦は一体、どこに着地するのか。しかと見届けたい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『僕のヒーローアカデミア』(ジャンプコミックス)既刊29巻
著者:堀越耕平
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/myhero.html

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