『僕のヒーローアカデミア』デクを助けるために戦う爆豪の心情 ヒーローとヴィランの思想戦、その結末は?

『ヒロアカ』が挑むヒーロー像の再定義

 堀越耕平の『僕のヒーローアカデミア』(集英社、以下『ヒロアカ』)の第29巻が発売された。「週刊少年ジャンプ」で連載されている本作は、アメリカン・コミックスでは定番のヒーローモノをジャンプのバトル漫画のフォーマットにうまく落とし込んだ漫画で、ジャンプでは尾田栄一郎の『ONE PIECE』に次ぐ看板作品となっている。

 舞台は、世界総人口の約8割が「個性」と呼ばれる何らかの特異体質を持つようになった超人社会。主人公の緑谷出久(以下、デク)は、個性の力で治安を守るヒーローに憧れる少年。“無個性”のデクは超人社会では落ちこぼれだったが、ナンバー1ヒーローのオールマイトから「ワン・フォー・オール」の個性を譲り受けヒーローの養成校である雄英高校のヒーロー科に入学。幼馴染の爆豪勝己、轟焦凍らクラスメイトと共に一人前のヒーローとなるべく様々な課題に挑んでいく。

 近年は、死柄木弔たちヴィラン(敵)の姿が深く掘り下げられており、今やデクたちヒーローと同じかそれ以上の比重で描かれている。

 死柄木が率いる超常解放戦線による社会転覆計画を防ぐため、ヒーローたちが敵の拠点である蛇腔病院と群訝山荘に同時襲撃を仕掛ける一掃作戦をきっかけに物語はかつてない盛り上がりを見せている。

※以下、ネタバレあり。

 ヒーローたちの作戦は成功し、超常解放戦線を追い詰める。しかし、蛇腔病院の研究室で眠っていた死柄木が目を覚ますと形勢は逆転。「崩壊」の個性によって蛇腔病院周辺を灰燼に帰す。死柄木の狙いが自分の中にある個性「ワン・フォー・オール」だと察したデクは、人がいない場所に移動して死柄木を誘導し、爆豪たち仲間のヒーローと共に死柄木を迎え撃つ。そして、この29巻では、廃墟と化した街の至るところで、ヒーローとヴィランの総力戦が本格化する。

 『ONE PIECE』のマリンフォード頂上戦争を筆頭に、近年のジャンプ漫画は、かつてのトーナメントバトルの代わりに、今まで登場した敵味方が入り乱れて戦う集団戦闘を、中盤のクライマックスに配置している。

 現在、ジャンプで連載されている芥見下々の『呪術廻戦』の渋谷事変も同じ展開となっている。この展開はバトル漫画としては「全編見せ場」とでも言うような盛り上がりとなるのだが、一方で予定通りの収束が難しく、時にキャラクターが暴走しすぎて、書き手のコントロールを超えた泥沼状態に陥ってしまう。

 この『ヒロアカ』29巻が連載されていた時期は、前述した『呪術廻戦』とクライマックス間近の藤本タツキの『チェンソーマン』が予測不能の超展開を毎回見せており、常に誰かが大惨事に陥るという阿鼻叫喚の連続だった。特に『ヒロアカ』は巻数が29巻と、他の作品よりも今までの“タメ”が多いため物語が暴走した時の勢いは桁違いだ。作画の情報量も週刊連載のキャパシティを超えた濃密なものとなっており、毎週目が離せなかった。

 ただでさえ近年は、死柄木たちの書き込みが増え、作者の気持ちがヴィランの側に乗っかっていたため、どのようにして物語をまとめるのか心配だったが、死柄木が覚醒して圧倒的な暴力を展開したからこそ、逆に街の人々を守ろうと奮闘するヒーローたちの姿が魅力的なものとして映っていた。

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