筒美京平はいつも最先端だった サリー久保田が振り返る、作曲家としての姿勢

筒美京平、ヒットメーカーとしての矜持

 前述の劇中歌「海岸線のホテル」は京平さん作曲のオックス「ダンシング・セブンティーン」(1968年)風にアレンジしましたが、これぞ’60年代モータウンやスタックス風味のR&B歌謡。この洋楽フレーバーは1972年「男の子女の子」でデビューした郷ひろみに受け継がれて黄金のポップス歌謡に昇華します。

  ベースやドラムなどのリズム隊や、時には上もののブラスやストリングも一体となってビートを強調し、歌と同化させるのも京平サウンドの魅力のひとつです。1971年の大ヒット曲、平山三紀の「真夏の出来事」なんかが良い例じゃないでしょうか。

 一方、細野晴臣が当時TVで観て、次の日にレコード屋さんに買いに行ったという西田佐知子の「くれないホテル」(1969年)は、エンゲルベルト・フンパーディンクの「ラスト・ワルツ」がベースになっているものの、メジャーセブンスを多用したポップスが日本の風土に則して変化したお洒落な演歌でもあります。とにかく全てが革新的でした。

 その後も、’70年代は流行のフィラデルフィア・サウンドを、半ばからはディスコ・サウンドを歌謡曲に取り入れて岩崎宏美、浅野ゆう子などをヒットさせ、’80年代はユーロビートやAORで少年隊や中山美穂と、ヒットを連発させていきます。日本の音楽産業に京平さんが与えた影響、業績は計り知れないものです。

 本書『筒美京平の世界』には、そのすべてが掲載されています。

 最後に、ビートルズは小学生の時で実体験があまりなかったけれど、筒美京平サウンドとは半世紀以上リアルタイムに体験できたことを今後、若い世代の音楽家たちに自慢しようと思います。

■サリー久保田
アートディレクター、グラフィックデザイナー、ミュージシャン。ミュージシャンとしてはザ・ファントムギフト(1987年・ミディ)、les 5-4-3-2-1(1992年・コロムビア)、SOLEIL(2018年・ビクター)でデビュー。今年、自身の還暦を記念して7インチ・シングルを2ヶ月連続でリリース!参加アーティストは平山みき、RYUTist、野宮真貴、MANON。11月、12月にVIVID AOUNDより発売。https://www.vividsound.co.jp/item.php?lid=4540399320090
それとサリー久保田が監修・選曲した渋谷系サウンド第三世代を一挙収録したコンピレーションアルバム『MAGICAL CONNECTION 2020』がビクターより発売中。https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A010090/VICL-65432.html

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