『キノの旅』が20年間、愛され続けてきた理由とは? ライトノベル週間ランキング

『キノの旅』が愛され続けてきた理由とは?

本 ライトノベル 週間ランキング(2020年11月9日~2020年11月15日・Rakutenブックス調べ)

1位『ソードアート・オンライン25 ユナイタル・リングIV(電撃文庫)』川原礫、abec KADOKAWA

2位『青春ブタ野郎はナイチンゲールの夢を見ない 11(電撃文庫)』鴨志田一、溝口ケージ KADOKAWA
3位『涼宮ハルヒの直観 12(角川スニーカー文庫)』谷川流、いとうのいぢ    KADOKAWA
4位『神様の御用人9(メディアワークス文庫)』浅葉なつ KADOKAWA
5位『新・魔法科高校の劣等生 キグナスの乙女たち(1)(電撃文庫)』佐島勤、石田可奈 KADOKAWA
6位『かくりよの宿飯 十一 あやかしお宿の十二ヶ月。(11)(富士見L文庫)』友麻碧、Laruha KADOKAWA
7位『Re:ゼロから始める異世界生活25(MF文庫J)』長月達平、大塚真一郎 KADOKAWA
8位『告白実行委員会 アイドルシリーズ ロメオ(14)(角川ビーンズ文庫)』HoneyWorks、香坂茉里 KADOKAWA
9位『紅霞後宮物語 第十二幕(12)(富士見L文庫)』雪村花菜、桐矢隆 KADOKAWA
10位『アザゼル〜緋の罪業〜 欧州妖異譚25(講談社X文庫)』篠原美季、かわい千草 講談社
ランキング:https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#!/

 人間のキノと、言葉を話す二輪車のエルメスが、いろいろな国を巡る旅路を綴った時雨沢恵一の短編連作シリーズ『キノの旅 the Beautiful World』(電撃文庫)が、2000年の刊行から20周年を迎えた。これだけ長くシリーズが続いているのは、世界の矛盾を露わにし、人間の本性に迫って、誰の心にも刺さる物語を紡ぎ続けてきたからだ。

 モンスターを倒し、悪人をこらしめ、世界の秘密を暴くような派手な展開はない。キノとエルメスが、旅先にある国に入って3日間だけ滞在し、その国ならではの体験をして出て行く繰り返し。どちらかといえば地味な作品でありながら、『キノの旅』シリーズは最新刊『キノの旅XXIII the Beautiful World 23』が、発売直後のRakutenブックスライトノベル週間ランキングで1位になり、1カ月経った12月7日~13日の週も18位に入った。

 『キノの旅』が、これほどまでに愛されているのはぜなのか。12月10日にKADOKAWAから刊行されたベストエピソード集『キノの旅 the Beautiful World Best Selection』I~III巻を開けば、20周年を記念して行われた企画「投票の国」と、作者によってチョイスされたエピソード群から、シリーズが持つ魅力を感じ取れるはずだ。

 例えば、投票では23位に入って、『Best Selection II』に入った「多数決の国」。―Ourselfish―というエピソード。キノとエルメスが訪れた国で、3日目に出会った唯一の国民が話すには、以前は王様がいてひどい独裁を行っていた。革命が起こり王様は処刑され、実権を手にした民衆は、同じ過ちを繰り返さないようすべて多数決で決めることにした。そして至った惨状から、多数派にすべてを委ねる愚かさが浮かび上がる。

 投票では27位で、『Best Selection I』に収録の「平和の国」―Mother's Love―は、スパイスが効きすぎて、行き場のない憤りが湧いてくる。長く戦争をしていた2つの国が、今は戦火を直接は交えていないが、戦争自体は続いている。とあるルールの上で戦っているからだが、それはゲームのようなものではない。実際に大勢が死んでいる。2つの国以外で。

 とてつもなく傲慢な2つの国の態度を、キノは声高には非難はしない。「ボクには分かりません。今のあなた方が間違っているのか、それとも昔の人々が正しかったのか」と、注意すれば分かる言葉で異議を差し挟む程度。それでも、読めば国を出てからキノの身に起こる出来事も含めて、権力や暴力をもって傲慢に振る舞うという、現実の社会で頻繁に起こっている状況への懐疑が浮かぶ。

 他のエピソードでも同様に、社会や政治の限界が暴かれ、人の心の醜さを突きつけられる。それが次から次へと繰り出される短編連作に、普通だったら神経も苛まれようというものだが、そこはキノとエルメスのコンビが見せる、達観したような態度に和らげられ、半歩退いた場所から美しくない世界を眺めていける。

 「平和の国」では、キノという人物について驚くような情報がもたらされる。文庫版でも第1巻に収録されていたこの話で、キノの“正体”を知ってしまうと、黒星紅白が描くイラストのクールだがキュートな雰囲気ともあいまって、キノから目が離せなくなってしまう。そんなキャラが、パースエイダー(銃器)を自在に操り、自分に危害を加えそうな相手を倒すかっこよさに惚れ惚れする。これもまた、シリーズが20年続く理由のひとつと言えそうだ。

 キャラクターでは、キノとは別にシズという青年と、喋る犬の陸がバギーを駆って旅をするエピソードも挟み込まれる。『Best Selection  I』に収録の「コロシアム」―Avengers―でキノと出会ったシズは、傍観者的なキノとは違い主体的に動くことも少なくない。もう一人、キノの師匠らしい女性が旅先で破天荒な振る舞いを繰り返すエピソードも挟まれる。これらが淡々とした流れにメリハリを作って飽きさせない。

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