新興宗教信者の親に育てられた子どもの目に映るものは? 芦田愛菜主演で話題『星の子』の問いかけ

今村夏子『星の子』で描かれる宗教の閉鎖性

 ちひろは研修施設に行ってから、両親と会えなくなる。ちひろを探していたという声は聞くけれど、両親がいたという場所に行っても会えない。夜も遅くなってからようやく会えた親子は、星がよく見えるという場所へ散歩に出かける。寒い中、同じ流れ星を見ようとする親子だが、父親や母親が見た流れ星をちひろは見られず、逆にちひろが見た流れ星を、両親は見られない。

 身を寄せ合いながら流れ星を探す親子の姿は幸せそうに映るはずなのに、そこにあったのは、どこか絶望にも似た感情だった。この親子は、同じ流れ星を見ることを望みながらも、永遠に同じ流れ星を見ることは出来ないだろうと感じさせる。

 『星の子』全体を通して、ちひろは宗教に対して比較的淡白だ。ちひろの両親は、完全にこの新興宗教を信じている。しかしちひろはどうだろうかと振り返ったときに、熱心に信仰している様子は一度も描かれていない。特別なパワーを持つ水は飲むが、宗教団体の集会所に行く理由は、そこにいる友達たちと過ごす時間が楽しいからであり、信仰からではない。研修施設で宣誓をする人のくじで外れた時はホッとしていると同時に、中には選ばれたい人もいるのだ、ということを認識している。お風呂場で友達から一緒に流れ星を見ようと言われても、そこまで乗り気ではない。

 淡白なちひろの目線は、新興宗教と日常の境目をぼやかしてもいたし、両親と同じ流れ星を見られない理由にもなっているのではないか。何を信じるか決めるということは、何を見るか決めるということなのかもしれない。

■ねむみえり
1992年生まれのフリーライター。本のほかに、演劇やお笑い、ラジオが好き。
Twitter:@noserabbit_e

■書籍情報
『星の子』(朝日文庫)
著者:今村夏子
定価:682円(税込)
発売日:2019年12月6日
出版社サイト

■公開情報
『星の子』
10月全国公開
主演:芦田愛菜
監督・脚本:大森立嗣
原作:今村夏子『星の子』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
配給:東京テアトル、ヨアケ
(c)2020「星の子」製作委員会
映画公式サイト

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