沖縄に住む人たちが持つ大きな困難が浮かび上がるーー『海をあげる』に綴られた日常

『海をあげる』から見えてくる沖縄のいま

 ある期間、著者は言葉を書くという事に苦しんだという。家族や、取材で関わる人達を親身に感じながらも、最後までは相手に手を差し伸べることができないというような苦しみも感じられる。しかし一方で、本書に描かれた言葉たちが様々な音色となって我々読者へと響いてくる。もし本作を読んで上間氏に興味を持った方は、前著『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)も読まれたい。本書と断ちがたい連なりを感じ取れるはずだ。

『裸足で逃げる』

 最終章「海をあげる」を読み終えると、沖縄に住む人たちが持つ大きな困難が題名と共に浮かび上がる。言葉は時に、一人では手に負えなくなる厄介なものだ。著者の手のひらからこぼれるように書かれた文章を握りしめる。そして著者と気持ちを共有する。どうか、たくさんの方にこの本を手に取ってもらい、著者の気持ちを共有してほしい。次に言葉を紡がなければいけないのは、言葉を託された我々の番ではないだろうか。

■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1カ月に約20冊の書籍を読んでいる。マイブームは山田うどん、ぎょうざの満州の全メニュー制覇。

■書籍情報
『海をあげる』
著者:上間陽子
出版社:筑摩書房
出版社特設サイト

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