アニメ化果たした『池袋ウエストゲートパーク』 時代に左右されないヒーロー像を考察
「池袋ウエストゲートパーク」を見てほしい。「おれのPHSの裏側にはプリクラが一枚貼ってある」という、冒頭の一文だけで時代を感じることが出来るだろう。ところが最新刊『獣たちのコロシアム』は、タピオカミルクティ・ブームの話から始まる。そう、このシリーズは、現実と同じスピードで時間が流れているのだ。しかしマコトたちは、いつまでも変わらない。まるで主要人物だけ、時間を超越しているようなのだ。もの凄く、割り切った書き方をしているのである。だが、それによりマコトやタカシは、時代に左右されないヒーローとして、池袋の街に屹立しているのである。
ところで作者は、シリーズ・ガイドブックである『IWGPコンプリートガイド』に掲載されたインタヴューで、「フレームが強固だったがゆえに、その時その時を象徴するような事件を入れることができた」といっている。
たしかにシリーズは、舞台とキャラクターが強固であり、だからこそ多彩な題材を投入できたのだろう。ちょっと思い返してみただけでも、ストリートギャングの抗争、育児放棄、地域通貨、ラーメン・ブーム、ビルマ難民、ネット自殺、振り込み詐欺、シングルマザーなど、時代々々で話題になった題材が取り上げられている。時代を切り取る手腕は抜群なのだ。
しかも作者は、題材の組み合わせ方が巧い。『獣たちのコロシアム』の収録作を例に挙げよう。「タピオカミルクティの夢」では、タピオカミルクティ・ブーム、大企業の追い出し部屋、若者への✕✕の蔓延が、見事に組み合わせられている。他にも「獣のコロシアム」では、児童虐待とダークウェブが結びつき、現代ならではの地獄絵図が露呈する。繰り返しになるが、常に“今”の空気が伝わってくるところが、シリーズの重要なポイントとなっているのである。なお、池袋を舞台としたシリーズが、映像映えすることは、いうまでもない。2000年に放送されたテレビドラマは、大きな人気を集めた。さらに今年の10月から、テレビアニメも放送されている。小説から始まり、マルチに展開する「IWGP」の世界に、いつまでも浸っていたいものだ。
■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。
■書籍情報
シリーズ最新刊『獣たちのコロシアム 池袋ウエストゲートパークXVI』
著者:石田衣良
出版社:文藝春秋
発売日:2020年9月3日
価格:本体1,500円+税
出版社サイト
<傑作選>池袋ウエストゲートパーク ザ レジェンド(文春文庫)
著者:石田衣良
出版社:文藝春秋
発売日:2020年10月7日
価格:本体950円+税
出版社サイト