まつもと泉は「ラブコメ漫画の開拓者」だったーー永遠の名作『きまぐれオレンジ☆ロード』の功績

ラブコメ漫画の開拓者としてのまつもと泉

 さて、(いまさら説明不要かも知れないが)『きまぐれオレンジ☆ロード』は、超能力一家の長男・春日恭介(高陵学園中等部3年生)と、不良少女の鮎川まどか、そして、まどかの後輩・檜山ひかるの三角関係を描いたラブコメ漫画である。超能力というSF的な要素は、一見ラブコメと相性がよくない気がしないでもないが、実は、高橋留美子の『うる星やつら』や細野不二彦の『どっきりドクター』などの例を挙げるまでもなく、両者の親和性は高いのである。

 また、なんといっても、ヒロインのひとり――鮎川まどかという美少女の魅力が、この漫画を永遠の名作にしたといっても過言ではないだろう。そう、彼女の中にある不良っぽさと純粋さの両義性、そして謎めいた大人の雰囲気が醸し出すクールな愛らしさは、他の80年代のコミックシーンを代表するヒロインたち――たとえば、『タッチ』の浅倉南や『うる星やつら』のラム、あるいは『The♥かぼちゃワイン』のエルらにはないものだった。「少年漫画のヒロインが不良少女」という設定に違和感をおぼえる人もいるかもしれないが、これは、「まじめな女の子が不良少年に恋をする」という少女漫画の王道パターンを少年漫画に転用したのだと考えればわかりやすいかもしれない(もっとも、まどかの不良性は物語が進むにつれ、徐々に薄まっていくのだが)。

 誤解を恐れずにいわせてもらえば、まつもと泉が描いた漫画で、いまなお広く世に知られているのは、この『きまぐれオレンジ☆ロード』だけだろう。だが、たとえ生涯に1本だけだったとしても、80年代の若者の誰もがそのタイトルを知っていた、そして、未だに多くの人々から愛されている――そんな作品を生み出すことができた漫画家は数えるほどしかいない。

 まつもと泉先生のご冥福を、心からお祈りいたします。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69

■書籍情報
『きまぐれオレンジ☆ロード 集英社版(1)』
まつもと泉 著
価格:440円(税込/電子版)
出版社:集英社
公式サイト

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