茂木健一郎が語る、クオリアと人工意識への見解 「人間の心なんて簡単にロボットに移せると言っている人はまがいもの」

茂木健一郎が語る、人工意識の最前線

ストーリー、SF、本の価値とは?

――『クオリアと人工意識』はストーリー仕立てのプロローグとエピローグになっているほか、全体に興味を惹くように流れが考えられています。

茂木:最初は難解な本にしようと思っていたんです。そうしたら担当編集者に釘を刺されたんですよ。「茂木さん、目標は最低でも5万部ですよ。5万部」って(笑)。まあそれは冗談としても、僕は英語で書かれた意識や人工知能についての本をたくさん読んできたなかで、向こうの人は一流の学者であってもみんなストーリーテリングを大事にしているなと感じていたんですね。日本だと「学者が書く本は難しく書いたほうががえらい」みたいな風潮がありますけど、僕の今回の本では「レベルを落とさないでわかりやすく書く」という英語のポピュラーサイエンスの伝統を踏まえたものを書こうと思ったわけです。

 ちなみにプロローグとエピローグがストーリー仕立てというのはロジャー・ペンローズに対するオマージュであると同時に、エピローグだからといって読者を油断させないことを狙っています。僕もネットで大量にテキスト読んでいるけど、やっぱり本じゃないと仕掛けられないことがあるんですよね。最初から最後まで物語をコントロールできますから。本っておもしろい媒体だなと、改めて発見がありました。

――専門分野と関係するSFを書きたいという気持ちはありますか?

茂木:SFは実はいま書いているんですけど……終わらなくて(笑)。でもそこは勝負するところなんだろうと思っています。僕の野望のひとつはハリウッド映画の原作を書くことですから。

 最近だと中国系のSFはおもしろいですよね。『三体』とか。先日芥川賞を受賞した『首里の馬』の作者・高山羽根子さんはSFも書いていますし、最近、小松左京さんが再評価されているし、ハリウッド映画の原作だってSFが多い。ジャンルとして注目されてきている気がします。SFはわれわれが現実を理解する上で重要な役割を果たしてくれるものですけれど、現実が大変なことになってくるとやっぱりみんな小松左京の『復活の日』だとかカミュの『ペスト』を読む。「良いSFを読みたい」という気持ちが高まってきていますよね。

――茂木さんは今の時代をどう見ていますか。

茂木:不確実性が高まって、今までの常識では扱えないものがたくさん出てきているという意味では、こんなにおもしろい時代はない。おそらく、ここから10年はもっといろいろなことが起こりますよ。

――そういう中で、本の価値はどんなところにあると思いますか。

茂木:YouTubeで本のレビューも配信しているんだけど意外と評判が良いんですよ。ネットの情報だけだと飽き足らない人が観に来ている。というのも、ネットの情報はみんなが読んでいるから、それだけでは差別化できない。差を付けるために本で深掘りしよう、と思って本の情報を求めている気がする。だからみなさんも僕の本を読んで、ほかの人とは差を付けてください(笑)。

■書籍情報
『クオリアと人工意識』
茂木健一郎 著
発売中
定価 : 本体1,320円(税込)
講談社現代新書
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000342756

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