スクールカースト上位の姉を殺したい……気鋭の小説家・渡辺優が露わにする、一生隠しておきたい人間の衝動
〈素直に吐き出されたその気持ちの奥で何を考えているのか。私と一緒にいることを、ヨシくんは「楽しい」と言ってくれる。なにが楽しいんだ。楽しいということについてどう考えているんだ。その楽しさから私のことをどう評価してるんだ。なにもわからない。私にはただ、楽しいと言うヨシくんがすごくかわいいなあ、ということしかわからない。〉
凛の悪意に取り込まれ、麻友の人間関係にも影響が及び壊される。そこから脱しようともがき、麻友の感情が炸裂する瞬間から、物語のカタルシスが始まっていくのがたまらない。
エピソードごとに、まるで急カーブを曲がるかのように様々な感情が放たれる中、麻友は最後、どういった行動を取るのか……。ぜひ手にとって読んでみて欲しい。
〈私って本当にお姉ちゃんに死んで欲しいと思っていたんだ。
うれしくて、今にもスキップしそうになって、恐ろしくなってつまづいた。
だってこんなの、魔女のスキップじゃないか。〉
目に見えない刃と、身を委ねたくなるような甘い誘惑が縦横無尽に駆け巡る作品だった。渡辺優が、また新たな光景を見せてくれた。これからも渡辺は、人が一生隠しておきたくなるような人間の衝動を、露わに書き続けいくのだろう。楽しみである。
■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1カ月に約20冊の書籍を読んでいる。マイブームは山田うどん、ぎょうざの満州の全メニュー制覇。
■書籍情報
『悪い姉』
著者:渡辺優
出版社:集英社
出版社サイト