伝説的音楽マンガ『TO-Y』が描いた、バンドブーム前夜の風景 パンク幻想をかきたてた「初期衝動」を振り返る

『TO-Y』連載時の音楽シーンとは?

“TOO FAST TO LIVE TOO YOUNG TO DIE”に頼らない終焉

 当時のパンクシーンやライヴハウスシーンのディテール、リアリティに関してはもしかしたら矢野りん子の『パンクボーイ』や楠本まきの『KISSxxxx』の方が忠実かもしれないし、ちょっとストレンジな迷パンクマンガ『THE 13TH STREET レィディオクラブ』の方が今となっては笑って楽しめる作品なのかもしれないが、『TO-Y』は80年代中後期のバブルとアングラ世界の背中あわせな時代の空気をファンタジックにスタイリッシュに切り取った作品だ。また多少の違和感はあるにせよ、パンクとへヴィーメタルの区別もできてないホラー映画の不良みたいな輩では決してない“ちゃんとしたパンクス”をメジャー誌に登場させた功績も評価したい。

 最後に、物語の結末では、破滅型のロックスター嗜好者のみならす、ヤンキーも文学少女も同時に喜びそうな“TOO FAST TO LIVE TOO YOUNG TO DIE”で安易に話を終わらせることをしなかったのは流石だとも言っておきたい。トーイはシド・ヴィシャスでも尾崎豊でもなかった。

 マーク・ボランのように早死にせず、カルトスターでは終わらぬ世界のポップスターとなり、死ぬ間際までアルバムを作り続けた、かのデヴィッド・ボウイとトーイを無理やり重ね合わせてみたいと思う。

■恒遠聖文(つねとお・きよふみ)
73年生まれ。ライター。音楽雑誌を中心に幅広く執筆。

■書籍情報
『To-y 30th AnniversaryEdition(1)』
上條淳士 著
価格:本体1800円+税
出版社:小学館
公式サイト

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