直木賞受賞、ノワール小説の名手が挑む『少年と犬』が堂々1位 文芸書週間ランキング

『少年と犬』堂々1位、文芸書ランキング

 2位には、村上春樹氏による3年半ぶりの新作で、6年ぶりの短編集となる『一人称単数』。3位の森見登美彦氏『四畳半タイムマシンブルース』は1年半ぶりの新作にして、デビュー2作目にあたる『四畳半神話大系』の16年ぶりの続編だ。といっても、森見氏自身が「続編というよりは、自分の作品の二次創作を書いた感覚に近い」と言っているように、キャラクターたちの“その後”が描かれるわけではない。

 『四畳半神話大系』は、「あのとき、別のサークルを選んでいたら、こんな暗黒の青春を送ることはなかったにちがいない」と臍をかむ腐れ大学生の“私”を主人公に、けっきょくどの道を選んでも悪友・小津との縁は切れず、四畳半アパートの最古参である樋口師匠からも逃れられず、後輩・明石さんには人知れず想いを寄せることになる、という“変わらなさ”を、4つのパラレルワールドを通じて描いた物語。

 対して、『四畳半タイムマシンブルース』は、アパートに突如としてあらわれたタイムマシンで、壊れたエアコンのリモコンを取り戻すべく、昨日と今日を行ったり来たりするドタバタ劇。アニメ脚本を手掛け、森見氏との親交の深い劇団ヨーロッパ企画の上田誠氏の戯曲『サマータイムマシン・ブルース』を原案にしたものだが、ある意味、5つめのパラレルワールドを描いた物語ともいえる。

 どうあがいても、自分は自分にしかなれないなか、同じことの繰り返しを重ねる日々。いつまでこんなことをやっているのだろう、自分の未来に光はあるのか、と永遠のサマータイムをさまよう迷子の鬱屈は、大学生のモラトリアム特有のものである一方、外に出ていいんだかいけないんだかわからず、解決策を見いだせないまま悶々とした日々を送っている今の私たちにも通じるものがある。とはいえ本作を通じて体感してほしいのは決して“共感”ではなく、愚かで生産性のなさすぎる彼らゆえの痛快さだ。

 アニメ版で“私”の声を担当した浅沼晋太郎によるPVは、超絶早口の朗読が披露されるだけなのに、なぜか清々しい心地となるから不思議である。タクラマカン砂漠のごとき灼熱の四畳半から、どうにか逃げ出そうとする“私”たち。読むだけで暑苦しい彼らと一緒に、この夏はぜひともタイムマシンで旅してほしい。

■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。

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