『シャーマンキング』が人々を魅了し続ける理由 ゲーム的な作風 × 精神世界のインパクト

『シャーマンキング』人々を魅了し続ける理由

精神世界系作品としてガチ

 『シャーマンキング』の何がすごいかと言えば、世界各国の呪術に関係する勢力が集まり、戦ってトップ(シャーマンキング)を決める、という(色々な)神をも恐れぬ設定を少年誌でやったことだ。

『シャーマンキング(14)』(ジャンプコミックス版)

 しかもシャーマニズムを扱った話なのに、『シャーマンキング』はとてもポップである。主人公・葉のいいなずけである恐山アンナにしても「恐山」「イタコ」という設定なのに全然おどろおどろしくない。当時はあそこまでスタイリッシュにそういうネタを扱ったものは珍しかったと思う(やはりジャンプ連載の藤崎竜『封神演義』が古典を大胆にアレンジした先行例があったからこそなのかもしれないが)。

 また、ファウストとその妻エルザのエピソードなどが典型だが、重たい話をしているのに、葉が普段ゆるめの性格をしていることもあって、重たくなりすぎない。阿弥陀、ネクロマンシー、ネイティブアメリカンのグレートスピリットといったけっこうややこしいネタを扱っているが、『シャーマンキング』は読者に対して「元ネタなんかわからなくていいし調べなくてもいい」くらいのスタンスで描いている。知識をひけらかしたりするような衒学趣味的なものは一切なく、広い読者に開かれている。

 しかし、ヌルいわけではない。「精霊の王シャーマンキングをめざす話だ」と聞いて未読の人は「海賊王に俺はなる!」的なやつか、と思うかもしれないが、意匠として適当にシャーマニズムを扱っているのではないのだ。

 武井は『シャーマンキング』以前、仏教バトルものの『仏ゾーン』という強烈なインパクトを与える異色作を『ジャンプ』で連載しており(電子書籍化お願いします!!!)、『シャーマンキング』でも「阿弥陀丸」「真空仏陀切り」といったネーミング、あるいはガンダーラチームの面々が仏陀とその弟子をモデルにしているあたりは相変わらずである。メキシコから来たやつの名前は「ペヨーテ」。幻覚サボテンから名前を取った少年誌のキャラなんているだろうか?(ある意味、90年代っぽくはあるが……)

 グレートスピリッツと葉たちが邂逅する場面は、北山耕平がネイティブアメリカンの精神世界を描いた名著『ネイティブ・マインド』や、中沢新一が多神教的なスピリットの世界を語った『神の発明 カイエ・ソバージュ4』などと合わせて読みたくなるシーンとなっている。

 序盤は小学生でも読めるバトルもの少年マンガとしてポップさと賑やかさに満ちていたのが、終盤に向かうにつれて精神世界や人の生死をテーマとしたマンガとしての高みに到達していき、絵も要素をそぎ落とし、洗練されていく。

 そんな作品が最後まで映像化される。これは日本はもちろん、世界からの反応が楽しみである。初見にしても何度目かにしても、アニメ化されるまえに今こそ唯一無二の『シャーマンキング』の旅路を体験しておきたい。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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