『映像研』はクリエイターに原体験を思い出させる 「想像する快楽」描く青春漫画の魅力
アニメ版『映像研』は完璧に近いアニメ化だったと思うが、設定資料を観ている時に頭の中で無限に広がっている作品は自分だけの理想の作品である。これには誰も敵わない。もちろん本作は、ただ夢想しているだけでなく、それを具現化していく過程も描いている。アニメ作りの物語と浅草たちが夢想する架空のアニメを同時進行で味わえる二重性こそが本作の魅力なのだが、根底にあるのは「想像する」ことで生まれる「ごっこ遊び」の楽しさである。だからこそ本作は、優れた青春漫画としても読めるのだ。
彼女たちの姿を観ていると、学生時代を思い出す。筆者には浅草やツバメのような画力も、金森のようなプロデュース力もなかったので、漫画やアニメを肴に友達と馬鹿話をするだけだったが、それでも充分楽しかったし、あれはまさに浅草が言うところの「私の考えた最強の世界。」だった。
誰しも自分だけの「最強の世界」を持っている。その世界に浸り「ごっこ遊び」に明け暮れた原体験を思い出させるからこそ『映像研』は多くのクリエイターを刺激する青春漫画と成り得たのだ。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『映像研には手を出すな!』(ビッグコミックス)1〜5巻発売中
著者:大童澄瞳
出版社:株式会社 小学館
価格:本体552円+税
https://www.shogakukan.co.jp/books/volume/45579