花沢健吾『アンダーニンジャ』は日常と暴力を同時に描く オタクを歓喜させる「架空現代史×忍者」の魅力
このヒリヒリするような架空現代史と諜報・暴力の匂いと同時に、すっとぼけたような気の抜けたギャグが挟まるのが『アンダーニンジャ』の特徴。浮世離れした九郎と、大野さんや川戸さん。変なラップで喋る忍者の日比奇跡や、落ち武者みたいな見た目の小説家吉田さんなど、つかみどころがない割に言動が妙にリアルな登場人物がゴロゴロ出てくる。
では彼らのギャグっぽいパートがストーリーを失速させるかというとさにあらず。ぼんやりした日常からシームレスに本気の殺し合いに移行する(場合によっては同時進行したりする)緊張感は、『アンダーニンジャ』の持ち味である。花沢健吾は、『アイアムアヒーロー』でも普通の人の普通のやりとりにゾンビという暴力がいきなり割り込んでくる描写が抜群にうまかった。『アンダーニンジャ』ではより洗練された形で、日常と同時に存在している暴力の世界を表現している。
一見突飛な漫画に見えるが、架空の歴史を設定し、その裏に忍者が存在し、そして忍者たちの世界は日常生活の水面下に張り巡らされているという構造の『アンダーニンジャ』は、忍者ものの構造をかなり忠実にトレースしている。なんせ前述のように、日本の忍者フィクションの基礎のひとつであり、なおかつ後年のバトルトーナメント形式のフィクションに大きな影響を与えた『甲賀忍法帖』がこれと同じ構造なのである。「現代に生きる忍者」というハットリくん的な題材でありながら、作り自体はとてもオーソドックスなのだ。
架空現代史という背景と忍者を組み合わせるという『アンダーニンジャ』の構造からは、数々の忍者フィクションに対するリスペクトが感じられる。「なんか突飛なことをやろう」という姿勢ではなく、真剣に忍者と向き合った結果という感じがあるのだ。オフビートなギャグや何を考えているかわからない登場人物がぞろぞろ出てくるので分かりにくいが、『アンダーニンジャ』は極めて真面目、かつ真っ当な忍者漫画なのである。暴力と架空の現代、そして諜報ものの空気感が好物の方には、是非とも手に取っていただきたい。
■しげる
ライター。岐阜県出身。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。
■書籍情報
『アンダーニンジャ』
花沢 健吾 著
価格:¥630+税
出版社:講談社