花沢健吾『アンダーニンジャ』は日常と暴力を同時に描く オタクを歓喜させる「架空現代史×忍者」の魅力

花澤健吾『アンダーニンジャ』の魅力

 オタクが好きなもの、それは架空現代史である。もしも第二次世界大戦でドイツが勝利していたら。もしも北海道がソ連に占領されていたら。もしもスーパーヒーローが実在してアメリカ現代史に影響を及ぼしていたら。もしも高度成長期に首都圏に活動範囲を限定しつつ独自の権限と強力な戦力を保有する国家公安委員会直属の実働部隊、通称「首都警」に時代が新たな、そして最終的な役割を与えようとしていたら。

 歴史のどこかで我々の現代とは分岐し独自のルートを辿った、よく知っているけどどこかが決定的に異なる架空の物語は、知っている事件や実在の人物を織り込みやすいところもあって、大量に作られてきた。やっぱりみんな、「もしもキャプテン・アメリカが実際にヨーロッパで戦ったらどうだったんだろうな~」みたいな話は好きなのである。

 もうひとつオタクが好きなもの、それは忍者である。鍛え上げた肉体から放たれる体術や特殊な武器・装備、はたまた超常的な能力までも駆使し、ヒーローとしてもヴィランとしても扱える便利な存在……それが忍者である。アイコンとして分かりやすすぎるデザインも相まって、シリアスなものからギャグに至るまで、忍者は日本のフィクションで大活躍してきた。「忍者が大嫌い!」という人を、おれは見たことがない。いるとすれば忍者に故郷を焼かれたとか、そういう人だろう。それくらい忍者は、オタクに限らず全日本人に親しまれている。

 もともと忍者は偽史ものの創作と相性がいい。1958年から連載され、日本におけるモダン・ニンジャ・エンターテイメントの礎となった山田風太郎の記念碑的傑作『甲賀忍法帖』は、徳川三代将軍決定の裏で行われた甲賀vs伊賀の一大暗闘を描いたものだった。歴史の裏には常に忍者がおり、人々に知られることなく死闘を繰り広げている……。もともと表に出ないものとされている忍者なら、そんなストーリーも作り放題。なんと都合がよく、また夢に溢れた存在だろうか。日本のエンターテイメント業界は、忍者にちゃんと礼を言わなくてはならない。

花沢健吾『アンダーニンジャ』1巻

 というわけで前置きが長くなったが、「架空現代史×忍者」の物語として今最もシャープでホットな作品が、花沢健吾の『アンダーニンジャ』である。舞台は我々の住む現実とはちょっと違った現代日本。実は日本には明治維新以降も忍者が生存し、太平洋戦争ではドイツの科学力と並んで連合軍を苦しめる要因となった。大戦に勝利し、日本に進駐したGHQは日本政府に対し全ての忍者組織の解体を要請。忍者たちは表舞台から姿を消した。

 しかし戦後70年が経過し、世界各地で紛争や宗教対立が続発。そしてそこでは、姿を消したはずの忍者たちが日本の国益のためその戦闘技術を使って暗躍していた。そして、日本国内にも忍者たちはおよそ20万人が潜伏。様々な職業に擬態しつつ、国民を監視していた。そんな中、主人公で17歳の忍者(表向きはプータロー)である雲隠九郎は、講談高校という名前の学校に潜入することを命じられる。

 どうですか、この設定。ワクワクしませんか。なんせ第一話冒頭で設定を説明するときに出てくるのが、厚木に降り立ったマッカーサーのコーンパイプに手裏剣が投げられるシーンなのである。しかしその場で親米派忍者がマッカーサーを守り事なきを得るのだ。親米派忍者! なにそれ! めちゃくちゃカッコいい!! おそらく戦後間もない頃は全国各地で親米派忍者と対戦を生き残った日本軍残党忍者の間で暗闘が行われ、恐らく下山・三鷹・松川の国鉄三大ミステリー事件や帝銀事件も忍者の抗争が原因である。おれは知っているんだ。詳しいんだ。

 現在発売されている3巻までを読むと、なぜ九郎が講談高校に潜入しなくてはならなくなったのかがなんとなくわかるようになっている。その理由もビリビリにシビれるやつである。一枚岩ではない巨大組織と、その隙間で暗躍する見えない敵。それに対し、社会のあちこちに潜んだ暗殺と潜入工作のエキスパートたちがカウンターを狙う。タイトルに「忍者」と銘打ち、実際に忍者の暗号や忍者っぽい戦闘シーンも盛り込まれているものの、『アンダーニンジャ』の匂いは現代的な諜報もののそれである。



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