『五等分の花嫁』が女性の心も掴んだワケ ラブコメの可能性を拡げた、ヒロインの個性と主人公の誠実さ

『五等分の花嫁』が女性の心も掴むワケ

「ただしイケメンに限る」わけがない男女の間に芽生える絆

 また、近年ヒットしている男性向けラブコメで感じるのは、「男性キャラの好感度が高い」ことだ。以前、少年マンガ誌の編集者と話した時、「ラブコメは女性読者も手に取りやすい」と言っていたのが印象に残っているが、意図的か無意識かは別として、女性が好感を持ちやすいキャラクターを主人公に据えた作品のほうが、売り上げや評価も高い印象がある。

 ただし、女性が好感を持ちやすいというのは「イケメン」である、ということではない。私がひとりの女性読者として好感が持つ男性主人公とは、女性をトロフィーワイフのように獲得品としてみるのでもなく、エロ供給者としてみるのでもなく、一人の人間として関係を築ける男性だ。本作の主人公・風太郎もそういった男性のひとりである。

 『五等分の花嫁』では、最初ほとんどのヒロインが主人公の風太郎に対して反抗的である。そこから5人がそれぞれに恋心や好感を風太郎に持っていくわけだが、それには風太郎自身がマイナスをプラスにするだけの魅力と説得力を持っていなければならない。

 風太郎は経済的に恵まれない中で効率を重視するあまり作品の冒頭では自己中すぎるきらいもあるが、作品が進むにつれて、五人それぞれと絆を深め、時に背中を押し、時に背中を押される関係を築いていく誠実で信頼のおける人物だ。

『五等分の花嫁』最終14巻書影

 4月17日に発売する最終14巻では、風太郎がついに一人の女性を選び、作品冒頭の花嫁が誰だったかが確定する。前述のインタビューで、著者の春場ねぎ氏は、「ラストまで全身全霊で頑張らなくちゃいけない。花嫁ではない4人を切り捨てる結末ではなく、それぞれ女の子たちが風太郎としっかり決着をつけるラストにしたいです」と述べている。

 私たちの多くが経験しているように、大好きな相手に選ばれずに終わる恋は珍しくない。本作では4人のヒロインが、その切なさを味わうことになる。けれど、作者がこういってくれる限り、選ばれなかった結末だって、ヒロインたちにとっては大好きな人と築き上げた尊いものに違いない。あなたの「推しヒロイン」は選ばれないかもしれないが、彼女たちと風太郎の選んだただひとつの選択を、ぜひ、その目で確かめてほしい。

■六原ちず
編集者、ライター。出版社勤務を経て、フリーに。子どもの頃の夢はマンガ図書館の館長。@chizu_rokuhara

■書籍情報 
『五等分の花嫁』 既刊13巻
(最終14巻が4月17日に発売)
著者:春場ねぎ
出版社:講談社
著者ツイッター:https://twitter.com/negi_haruba
作品公式ツイッター:https://twitter.com/5hanayome

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