あだち充が残したキャリア集大成的作品『H2』 古賀春華が物語の中心から外れていった理由とは?
この先、春華が本当の恋に気づくことはあるのか?
すべてが終わったあとの物語のラストシーン、紙飛行機を投げながら比呂が春華の質問に答える。「ちょっと大リーグまで。」このひと言、実は先述の「I love you」よりももっとストレートな愛のメッセージだったのだ。ひかりへの思いを清算して、またいちから春華と向き合い、春華の気持ちに答える。春華が望む「プロ野球選手の国見比呂」という理想像に「メジャーリーガーの国見比呂」という上回る姿を提示する。春華もその言葉の意味を理解したので、笑顔で返したのではないだろうか。比呂と春華、二人のHの物語はここから始まっていくのだ。春華もいずれ、本当の恋に気づくときがくるのだろう。ひとりの人間、国見比呂と本当の意味で向かい合ったとき、これまで以上の幸せな時間が春華に訪れるのではないだろうか?
十代の淡い恋模様を描き続けているあだち充。現在は『ゲッサン』で真の意味で集大成とも呼べる『MIX』を連載。今もなお衰えぬあだち節全開で物語を紡いでいるが、年齢的にもキャリア的にも一番脂が乗っていた時期に連載していた『H2』が、やはり名作であることに異論の余地はない。改めて読み返す人は、初めて読んだ頃のことや自身の初恋を思い出しながら、初見の人は10代の少年少女が織りなす青春ラブコメの醍醐味を存分に味わってほしい。
■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、漫画、特撮、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。
■書籍情報
『H2 (14)最初からないのよ(My First WIDE版)』
あだち充 著
発売日:4月13日(月)
価格: 670円(税込)
出版社:小学館
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