80年代の音楽シーン描いた不朽の名作『To-y』 作者が伝えようとしたメッセージとは?
今だからこそ描けるトーイたちの絵
何があっても歌い続けること。それは、その後の上條の作家活動を見ていてもよくわかる。たとえば、『To-y』の「完全版」が刊行された2015年前後から、カバー用のイラストだけでなく、個展の開催やグッズの販売に絡めて、上條は再び同作のキャラクターを少しずつ描き始めているが、厳しいいい方をさせてもらえば、現在の彼が描くトーイたちの絵には、かつての瑞々しさや荒々しさが生み出していたパンキッシュな迫力はない。だが、さまざまな経験を積んだいまの上條にしか描くことのできない、芳醇な香りが漂う年代物の美酒のような色気がある。そう、過去の一瞬の輝きに縛られることなく、かっこいいか悪いかなども関係なく、常に、いまできる最高のパフォーマンスを見せ続けること。それが、上條の考えるロックスピリッツであり、本作で読者に伝えようとした、「歌い続ける」という最大のテーマでありメッセージであった。
さて、前述のように今年は『To-y』の連載開始から35周年。コーチジャケットやTシャツ、EPサイズのポストカードといった新規のグッズ販売がすでに多くのファンを喜ばせているが、まだ詳しくは書けないが、さらに水面下で“ロックな”企画が進行中のようだ。PUNX NOT DEAD. 期待していていい、と思う。
■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69
■書籍情報
『To-y 30th AnniversaryEdition 全5巻』
上條淳士 著
価格:本体1800円+税(各巻)
出版社:小学館
公式サイト