14歳でデビューした漫画家・ときわ藍、デビューの裏側に母娘の『まんが道』アリ 生まれ変わった『ドラえもん』を読む

14歳の漫画家・ときわ藍の『まんが道』

   14歳でデビューした「ときわ藍(らん)」という漫画家をご存じだろうか。短編『アイドル急行』で小学館新人コミック大賞(少女・女性部門)の大賞を受賞後、高校に通いながら作品を発表しつづけ、昨年、初の単行本となる『夜からはじまる私たち』を刊行した。さらには映画『ドラえもん』のコミカライズを任されるなど、彼女に寄せられている漫画界の期待は大きい。また、これは漫画の才能とはほとんど関係のない話だが(ただしデビュー作のアイデアには少なからず関係している)、ときわの妹はアイドルグループSKE48のメンバー・浅井裕華、いとこはSKE48の元メンバー、現在は女優として活躍する木﨑ゆりあであり、そうした表面的な情報だけを耳にした人の多くは、たぶん彼女のことを“恵まれた環境で育った天才少女”だというような印象を持つのではないだろうか。

 それはある意味では間違ってはいないが(どう考えても才能はあるだろう)、ある意味では誤解であるということを、先ごろ発売されたときわの新刊、『夢のポッケ -14歳で夢をかなえてまんが家になった私-』と『映画ドラえもん のび太の新恐竜—ふたごのキューとミュー−』(原作:藤子・F・不二雄/脚本:川村元気)の2冊を読んで知った。前者はイラストや漫画、写真などもふんだんに織り込まれたときわの自伝的なエッセイ、後者は先に触れた、映画『ドラえもん』のコミカライズ作品である。

母と娘の『まんが道』

 まずは、『夢のポッケ』についてだが、これを読めば、決してときわがこれまで順風満帆な人生を歩んできたわけではないということがわかるだろう。詳しくは同書を読んでいただきたいが、中学時代、あまり周囲にうまく溶け込むことのできなかった彼女は、絵や漫画を描くことで救われたらしい。最も影響を受けた漫画家は藤子・F・不二雄。ある時期に両親が離婚し、母子家庭に育ったため、たくさんのコミックスを買ってもらうことはできなかったが、それでも彼女の母親は家計をやりくりして、漫画を描くための道具や、毎月『藤子・F・不二雄大全集』から何か1冊を娘に買ってあげたという。ときわはそんな母に感謝しながら、度重なる落選にもめげずに投稿を繰り返す。この、漫画をめぐる親子の関係が本当に素晴らしい。それはまるで、Fの“相棒”の作品にたとえていうなら、母と娘の『まんが道』だ。

 たぶんその、ときわが母親に買ってもらったという『藤子・F・不二雄大全集』の数々は、いずれも読み込まれていまはボロボロになっていることだろう。古書店に持ち込んでも「お引き取りできません」といわれる状態のものだと思うが、私はその本をとても美しいと思う。そしてある意味でその読み込みの成果が、今回の『映画ドラえもん のび太の新恐竜』だったといえはしないだろうか。

 『映画ドラえもん のび太の新恐竜』は、同タイトルの映画の公開に合わせて企画されたコミカライズ作品だが、残念ながらコロナウイルスの拡散防止のため、映画の公開は夏まで延期されることになった(現時点では、8月公開予定と公表されている)。なお、本作は『ドラえもん』の少女漫画としての初のコミカライズ作品であり、そのジャンルの特性を活かした出だしの場面の“仕掛け”に、読者はまず驚かされるだろう。

 具体的にいえば、物語の冒頭の2ページ目までは、のび太とドラえもんの姿は、原作者の藤子・F・不二雄の絵を完全コピーしたビジュアルで描かれているのだが、3ページ目からは、「未来デパート」の店員が持ってきた「少女まんがライト」の試供品を使って、ふたりはかわいく“少女漫画化”するのだ。この描写はもちろんギャグとしても充分成立しているが、それ以前に、Fの漫画を読み込んでいるときわならではの、見事な『ドラえもん』批評にして少女漫画批評だといえよう。さらに、キャラのデザインだけでなく、かつてFが描いていた『ドラえもん』ではあまり見られなかった、大ゴマや奥行きのある画面構成、映画的なモンタージュも多用され、すべてが今風の漫画にアレンジされている。

 だがやはりそこはFを尊敬するときわ藍のこと。物語の根底に流れる「藤子・F・不二雄イズム」は、物語のテンポや、キャラがときおり見せる表情、“未来は変えられる”という前向きなテーマなどを見れば隠しようがない。つまり、本作は、若い才能による現代的な感覚と、巨匠が生涯を通して描きつづけた“子供向け漫画の教え”がうまい具合にミックスされた、とても味わい深い1作になっている。

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