ピース又吉×せきしろが語る、自由律俳句の面白さと自意識の葛藤 「自分が好きかどうかと自意識は別なのかもしれない」

又吉直樹×せきしろ、自由律俳句を語る

――タイトルとなった又吉さんの句は、まさに2人の中間にある句だと。

又吉:そんな気がします。

せきしろ:わかるよね、この感覚は。僕、自動販売機で売ればいいと思ってるくらい、蕎麦湯が好きなんですけど。

又吉:せきしろさんは蕎麦湯だけで飲むんですって。

せきしろ:蕎麦湯の良さだけを味わいたいから、つゆは違う器に全部入れるか、それがあまり綺麗じゃないなと思った時は残ったつゆを全部飲み干して、最初からなかったものにするんです。

又吉:そこまでして、蕎麦湯だけを楽しみたいんですね(笑)。

せきしろ:東京に出てきて、こんなおいしいものがあるんだと感動した。だから、コンビニに蕎麦湯を置いてほしいです。コーヒーみたくカップだけ100円で買うから!

又吉:もしコンビニにあるとしたら、かつてあったものです。これから生まれるものではないと思いますけどね(笑)。

――蕎麦湯好きのせきしろさんとしては、タイトルになった又吉さんの句に感じ入るものがあったと。

又吉:そもそも、初めて行った店が蕎麦湯を出す店かどうかもわからない。来ないのに待っていてもしょうがないし、店員さんにくださいとお願いするのは失礼かもしれないし。

せきしろ:セルフの場合もあるしね。実は置いてあったことに気づかない自分がいたのかもしれない。いつまで待っていいのかもわからないし、蕎麦湯ないんですかって聞くのもかっこ悪いじゃないですか。ないって言われたら、二度とそのお店に行けなくなるし、通ってお店の人に“蕎麦湯”ってあだ名付けられるのも……。“蕎麦湯来た!”って言われたら嫌ですから。

又吉:僕、相方に書いたネタを渡すために、近所のコンビニでよくコピーしてたんです。ある日、先輩と居酒屋で飲んでたら、そのコンビニの店員たちが奥の席で飲み会をしていて。普段、丁寧に接客してくれる人たちの羽目を外した姿はあんまり見たくないなと向こうから見えないように隠れてたんですけど、見つけられて。その瞬間、「あ、コピーだ!」って言われたんです。

せきしろ:もう……最悪だ!(笑)

又吉:一緒に飲んでいた先輩が少しケンカっ早い人だったので、絶対にこの状況を知られてはいけない。ケンカになったら、僕が一番恥ずかしいと思ったので、何も起こってないように振る舞いました。

――やるせなさだけで自分自身だけで食い止めようとしたなんて、何周も思考したが故の気遣いを感じます。それぞれの句で印象的なものはありますか?

又吉:せきしろさんの『小さいじゃがいもともっと小さいじゃがいも』は、風景としてもわかるし、音としても面白いですよね。

せきしろ:又吉くんの『ユニオンジャックの水着が来た』も楽しい。その人はそれを選んだわけで、見ているほうもいろいろと考えられますから。

又吉:『真顔でポテトを振る女』も本来、その顔は見てはいけないんです。振ってるポテトを見る、もしくは音を聞かなあかんのに、どんな顔して振っているんやろうって見ているところを切り取っているのが面白いですよね。

せきしろ:ファーストキッチンによくいるんだよ(笑)。

2人の考える自意識の置きどころ

――せきしろさんのエッセイに、人の目を気にしてしまうことについて書かれていました。おふたりとも自意識に敏感だったり、繊細だったりするところがあるかと思いますが、日々どう向き合っていますか? SNSがどんどん進化する今、自意識の置きどころがわからなくなってる人が、実は多いのではないかと感じるのですが。

せきしろ:僕は自意識が強いだとか過剰だというところは普段、見せないようにしてる……と言いながら、結局は見えてるんでしょうけど、周囲にわからないようにはしてるんですよ。最近、自意識過剰なところや気にしすぎを公言する人が増えましたけど、僕の年齢と近い人たちはかっこ悪いと思っているからなかなか言えないんですよね。

又吉:僕も若い頃のほうが言いやすかったです。

せきしろ:この歳でまだそんなことを言っているのかと思われそうだしね。でも……結局治らないよね?

又吉:基本、治らないので、最近は平気な振りをすることが多くなりました。だから、自分自身はこういうものなんだと認めてしまったほうが楽なのかもしれないですね。

――自分自身を受け入れるには、自分のことを好きかどうかも重要になってきそうですが、お2人は自分のことを好きですか?

せきしろ:なんとも思ってないです。けど、僕のことを好きな人なんて絶対いないとはずっと思っているので、猫とばかり喋ってます。そのせいなのか、最近、声のボリュームがわからなくなってしまって。この取材に来る前もびっくりしちゃいましたよ、外に出て「意外とあったけぇなぁ!」って大声で言ってしまって。

又吉:それ、だいぶヤバいですけど、周りに人はいないですもんね? だったら、大丈夫です。僕は……自分で考えることが好きで、考える行為自体が趣味なので、自分が好きというより考えている状態が好きです。例えば、雑誌に休日のいい過ごし方って載ってるとするじゃないですか。そこに書かれているものより僕個人が考えた休日の過ごし方のほうが僕個人は絶対楽しいけど、もし雑誌に僕の過ごし方が載っていたら一番人気がないだろうこともわかってる。かと言って、その雑誌に載ってる一番いい過ごし方やとも思われたくないということです。だから、自分が好きかどうかと自意識は別なのかもしれないですね。

せきしろ:そもそも、自分を好きって言っていいかどうかがわからないよね?

又吉:そうですね。僕は本当の感情を探すのに結構、時間がかかってしまうというか、相手に合わせてしまうことが増えました。嬉しいですかと聞かれても、嬉しくもないし、嫌だというわけでもない。でも、そう答えたら、質問した人の期待を裏切ってしまう気がして、喜んでるほうが自然だろうなと考えて嬉しいですと答えるんです。本当はどっちでもいいんですけど、みんなが一番傷つかないのはどれなんやろうと考えてしまって。そうすると、自分の感情はどこへ行ってしまったんだろうと思ったりもしますけど。

せきしろ:僕もなんと答えればいいのかわからなくて、どう答えたほうがいいですか? って聞いてしまうことがありました。

又吉:結局、自分に客観性を持つことが大事なのかもしれないですね。

* * *

 他者をおもんぱかるが故に、何重にも思考を巡らせてしまうせきしろと又吉。外出するのがためらわれる今、二人の細やかな視点と感性が感じられる自由律俳句に没頭して、頭の中の創造を広げてみてはいかがだろうか。

■書籍情報
『蕎麦湯が来ない』
著者:せきしろ、又吉直樹
出版社:マガジンハウス
定価:1,540円(税込)
Twitterアカウント
https://magazineworld.jp/books/paper/3085/
アマゾン:https://amzn.to/2v2ZECj

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2020年4月20日(月)

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