「ネタを書いてなくても“芸人”として本を出せる」バイきんぐ・西村瑞樹、初のエッセイ集を語る
あくまでネタを書いたことのない芸人の本
「書くのは本当にしんどかったですね。この本を出すにあたって、書き下ろしを収録することになり、書くのに集中しようとホテルで缶詰になろうと思ったんですよ。でも実際にホテルに行くと、ダラダラしちゃって、ついでにマッサージ呼んだりしちゃって。結局、2行くらいしか書けなかったですね(笑)」
『キングオブコント 2012』(TBS)で見事チャンピオンに輝いた、人気お笑いコンビ・バイきんぐの西村瑞樹が、エッセイ集『ジグソーパズル』を上梓した。ニュースアプリ『産経プラス』で連載していたエッセイ「バイきんぐ西村瑞樹の暇とY談と私」に大幅に加筆・修正したものを1冊にまとめた同書のタイトルは、西村が14年間に渡って挑戦し続けている、1000ピースの「終わらないジグゾーパズル」からつけられたという。その間に4回も引っ越しをしているというのも、西村らしいエピソードだ。
西村の「一体、何を考えているのかが分からない」というイメージどおりの、独特の緩さが前面にでた同書は、ユニークな文体が読み進めるうちにクセになる仕上がり。全58本(連載54本・書き下ろし4本)のコラムはあっという間に読み終わり、読後には不思議な感動さえ覚える。
普段まったく本を読むことがないという西村だが、まったく奇をてらうことがないまっすぐな文体は、普段テレビなどで見せる天然ぶりそのままで好感が持てる。連載時のタイトルが『バイきんぐ西村瑞樹の暇とY談と私』ということもあり、適度に挟み込まれる猥談も笑いを誘う。例えば、タイトルの元ネタでもある「終わらないジグソーパズル」の章では、
その間付き合っていた彼女にはみんな手伝ってもらいました。『東京ラブストーリー』のカンチとリカみたいに。なんなら仮初めの一夜を過ごした女性も数ピースほどハメています。(第1回『終わらないジグソーパズル』より)
といった具合だ。「尻が好きで、尻を叩かれ」というような、タイトルからしてまっすぐなものもあるが……。ところで、連載は54回にも渡って続けられたわけだが、毎回のテーマをどのように決めていったのだろうか。
「最初に、なんでも好きなこと書いていいですよと言われて、エッセイ全体のテーマとかも、まったく指示されなかったんですよ。この”なんでもいい”と言われるのが厄介で、余計に難しい(笑)。なので、その時々のタイミングで思い出した過去のエピソードを書くという形で進めました。『ツイン・ピークス』の回は、ちょうど新作が話題になっていたところで、『そういえば父親の洋物のツイン・ピークスあったな』と思い出しました」
扱うトピックスは様々だが、一貫したテーマのようなものを感じられるのも本書の魅力だ。西村のオフビート感のある文体が、それに適したテーマを毎回呼び寄せているような印象である。各話に「オチ」があったりなかったりするのも、西村の魅力となっている。
「もちろんオチは意識はしているんですけど、思い浮かばないときは、もういいやと半ば諦めて、そのままにしました(笑)。芸人なので、いつも『何か起きないかな?』とは思っているんですけど、実生活で毎度ちゃんとオチがつくわけではないですからね。キャンプに行ってもノーエピソードで帰ってきて、いつも小峠に『”なんでエピソードゼロなんだよ!』と怒られています。ハードルを下げるわけじゃないですけど、ネタを書いてない方の奴が書いた本だということはご理解いただきたいですね(笑)」
相方・小峠とヒロシ、ザコシショウのことは書くと決めていた
最近はキャンプ芸人として『アメトーーク』(テレビ朝日)に出演したり、とうとう『西村キャンプ場』(テレビ新広島)という冠番組を持つほどの活躍をしている西村。本書でも自らを”キャンプ中毒”と分析しているほどで、キャンプをするために無人島にまで行ってしまうのだとか。
「正月休みに沖縄の無人島に4泊5日で行きました。無人島は最高のリゾート地ですよ! いつも7~8人で活動するメンバーがいるんですけど、途中から酒とかタバコがどんどん無くなってきて、仲間内で2,000円くらいで取引されたりするんです(笑)。でも、暑くて喉が乾くから買っちゃいますね。仕事で行く“ビジネスキャンプ”はある程度、やることが決められていて、それはそれでやりがいがあるし楽しいんですけれど、やっぱりプライベートのキャンプは格別です。例えば今回の無人島なら、何もやらなくてもいいし、全裸になってもいいですから」
変わり者として、芸人からもツッコまれがちな西村だが、お笑いに対する愛情は深い。それは最後に書き下ろされた4つのエッセイを読めばわかる。先述の通り上記にもあるように、毎回のテーマ決めに苦労していたという西村だが、この4つのテーマはすぐに決定したという。冠番組のこと、そしてヒロシ、ハリウッド・ザコシショウ、そして相方の小峠英二に宛てたものだ。
「全員、僕の好きな人なんです。本を出すと決まったときから、そのひとたちのことは絶対に書くと決めていました。ちゃんと書けて良かったと思います。でも、こんなに一生懸命気持ちを込めて書いたのに全然売れなかったら、出版社の人には申し訳ないけれど、それはそれで面白いですよ(笑)」