『鬼滅の刃』伊之助の涙はなぜ、共感を誘うのか? イノシシの面に隠された心優しい素顔

『鬼滅の刃』伊之助の純粋さ

※本稿はネタバレを含みます。

 『鬼滅の刃』第197話(『週刊少年ジャンプ』2020年15号)では、炭治郎・伊黒と無惨との死闘に、また新たな展開があった。珠代たちによって作られた薬の効果で弱体化し、いよいよ追い詰められた無惨は、身体から謎の衝撃波を放って炭治郎たちを戦闘不能にする。

 無惨はその隙をついて逃げようとするが、そこに意識を取り戻した満身創痍の伊之助が立ちはだかる。「俺たちを庇って数珠のオッサンの足と半々羽織りの腕が千切れた あっちこっちに転がってる死体は、一緒に飯を食った仲間だ 返せよ 手も足も命も全部返せ それができないなら百万回死んで償え!!」

 イノシシの面から大粒の涙をこぼしながら、猛然と無惨に立ち向かう伊之助。無惨の触手に捉えられそうになるが、同じく意識を取り戻した善逸に助けられ、二人で無惨の猛攻と対峙するーー。

 この伊之助ほど、物語を通して「心」が成長したキャラクターはほかにいないのではないだろうか。頭にイノシシの面を被り、上半身は裸、刃がギザギザに欠けた二本の刀を武器にする異形の剣士は、鼓屋敷で初登場した当初は好戦的な野生児そのもので、敵か味方かもわからないような有様だった。猪に育てられた捨て子ということもあってか、他人の感情に無神経であり、考えなしに「猪突猛進!」するのが伊之助というキャラクターだった。

 そんな伊之助だが、炭治郎たちと行動をともにすることで、少しずつ性格が変わっていく。那田蜘蛛山では父蜘蛛と一騎討ちするが殺されそうになり、水柱の冨岡義勇に助けられて己の弱さを痛感。蝶屋敷で炭治郎らと修行に励み、より強くなることを誓う。

 伊之助にとって何より大きかったのは、無限列車での煉獄杏寿郎との出会いだろう。命を賭して戦う煉獄の戦いは、伊之助にも絶大な影響を与えた。煉獄の死に様に心を打たれ、人目をはばからず号泣した伊之助は以来、一見すると前と変わらぬ性格だが、誰よりも仲間を大切にする心優しい青年となっていった。

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