『マイ・ブロークン・マリコ』で注目の漫画家・平庫ワカ、初インタビュー 「この作品を描いて本当に報われた」

『マイ・ブロークン・マリコ』インタビュー

 2019年、『COMIC BRIDGE online』(KADOKAWA)で連載された平庫ワカの『マイ・ブロークン・マリコ』は、全4回の連載が更新されるたびにトレンド入りし、今年1月に出た単行本も発売即重版が決定、いまなお売れ続けている。同作は、自ら命を絶った親友イカガワマリコの遺骨とともに海をめざすOLシイノトモヨの旅を描いたロードムービー風の傑作だが、その作者である平庫ワカという新人漫画家がいったい何者なのか、現時点ではまだあまり多くの情報は公開されていない。そこで今回、この『マイ・ブロークン・マリコ』が誕生するまでのいきさつをはじめ、これまで目にしてきた漫画や映画、好きな音楽についてなど、ファンなら誰もが知りたいようなことを平庫ワカ本人に語ってもらった。なお、今回のインタビューが漫画家・平庫ワカにとって初の本格的なインタビューとなる。(島田一志)【最後に平庫ワカのサイン入り書籍が当たる、プレゼント企画あり】

『YISKA―イーサカ―』でデビューするまで

――平庫さんのデビュー作は、『マイ・ブロークン・マリコ』(以下『マリコ』)の単行本にも収録されている短編『YISKA ―イーサカ―』(以下『YISKA』)ですが、デビューに至るまでの経緯を教えてください。

平庫:もともとはpixivでファンアートなどを発表していたのですが、それを見てくださった編集さんが声をかけてくださって。何度か打ち合わせをさせていただき、とりあえずMFコミック大賞(=KADOKAWAの『月刊コミックフラッパー』、『月刊コミックアライブ』、『月刊コミックジーン』、『コミックキューン』4誌合同の漫画賞)に応募させていただくことになりました。そのときは「ステップアップ賞」という賞をいただけたのですが、そこから先はしばらく低迷期が続きました。ちなみにその最初に声をかけてくださった編集さんが、のちに異動先の『COMIC BRIDGE online』で『YISKA』と『マイ・ブロークン・マリコ』を担当してくださった方でもあるんですけど、なんだかんだで『YISKA』が形になるまでかなり時間がかかりましたね。4年くらいかかったのではないでしょうか。

――平庫さんが初めて漫画を読んだのはいつですか?

平庫:実は小学4年生くらいまで漫画の読み方がよくわからなかったんです。絵と字を同時に読めなくて。絵なら絵だけ、字なら字だけを見ちゃって、全然ストーリーが頭に入ってこなかったんです。ただ、安孫子三和先生の『みかん・絵日記』に出てくる猫がかわいくて、眺めているうちに漫画の読み方が理解できるようになりました。そこから先は気になった漫画を少しずつ手に取っていくようになりました。

――ご自分で実際にコマを割った漫画を描き始めたのはいつですか?

平庫:“絵物語”みたいなものは小学2年生の頃から描いていました。絵を描くこと自体は物心がついた頃から好きで、無意識のうちに床に絵を描いたりなどもしていました。

好きな漫画、映画、音楽

――『みかん・絵日記』以外で具体的に影響を受けた漫画はありますか?

平庫:小学校高学年の頃に高屋奈月先生の『フルーツバスケット』を読んで、そこから少しさかのぼって萩尾望都先生など、少し前の世代の少女漫画を読むようになりました。そのあとはどちらかといえば漫画よりも映画を優先して観ていましたが、『バガボンド』(井上雄彦)や宮崎駿作品などは節目節目に影響を受けている気がします。そのほか、海外のバンド・デシネやグラフィック・ノベルなども好きで、その影響も強いかもしれないです。

――映画はどういう系統の作品をご覧になりますか?

平庫:いろいろ観ますが、ややミニシアター系が多いです。たとえば『マリコ』を描くときに意識したのはフランス映画の不条理さです。グザヴィエ・ドラン監督の『たかが世界の終わり』(カナダ・フランス合作)という映画があるんですけど、それを観たときに、「あ、こんなふうに終わらせていいんだ」と少し衝撃を受けて、自分でもそういう正直な漫画を描きたいと思いました。

――音楽はお好きですか。

平庫:音楽は好きです。ジャンルを問わず、いいなと思ったらどんどんプレイリストに入れていく感じです。最近はEDMをよく聴いてますけど、『マリコ』を描いてたときは、菊池章子の「星の流れに」と西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」、島倉千代子の「夕焼けの歌」を作業中よく流してました。ちなみに4話の冒頭でテレビで流れている曲は「夕焼けの歌」をイメージしていました。歌詞の内容が、母親やシイちゃんに対するマリコの心情を考えるヒントになるかなと思っていました。

『マイ・ブロークン・マリコ』で描きたかったこと


――さて、ここからは『マリコ』本編についてうかがいたいと思います。この作品の連載はもともと全4話という構成を決めてから始めましたか?

平庫:そうですね。1話ができた時点で、ざっくり4話くらいと想定していました。そこで、担当さんと相談して、先に描いてあった『YISKA』を加えて、単巻(全1巻)のコミックスにまとめようという話になりました。ちなみにその頃、『YISKA』と同じような海外を舞台にした作品のネームを作っていたんですが、修正しているうちに別のネームを描いてみたくなって、出てきたのが『マリコ』でした。

――舞台を日本に変えるきっかけみたいなものが何かあったのでしょうか。

平庫:その当時、小学生の女の子が虐待死したというニュースがたくさん流れていました。いまも似たような事件は時々起きていますが、実は身近なところに虐待のサバイバーがいて、その人の過去の経験などを身近で聞いていて、自分にはどうにもできなかった歯がゆさをずっと感じていました。そういうこともあって、いつか作品にして吐き出したいと思っていました。そのとき、「遺骨と旅する女」という絵が浮かんで、その勢いのままネームを切っていきました。第1話から第3話までは、その勢いもあってすんなりキャラクターの顔やストーリーも決まっていきました。

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