グラフィック・ノベル『サブリナ』はなぜ文学として評価された? 担当編集者が現代的な魅力を解説

グラフィック・ノベル『サブリナ』はなぜ文学として評価された? 担当編集者が現代的な魅力を解説

 昨年10月の発売以来、テレビやラジオなど様々なメディアで紹介され、各ジャンルの専門家の評価も高いグラフィック・ノベル『サブリナ』。人気映画の原作や有名コミックの続編などではないことに加え、3,600円(税抜)という決して手に取りやすい値段でないのにもかかわらず、増刷も決定したという。

 本作はグラフィック・ノベル初のブッカー賞にノミネートされたという冠もさることながら、毎日テレビや、流れてくるSNSで見ているような「悲劇」と「現実」が、綿密な構成と彩度の低い画で描かれた非常に現代性のある作品だ。説明的な表現が極端に省かれた内容も、読者を惹きつける。今回は日本版の編集を担当した、早川書房の編集者・永野渓子氏に出版権取得の理由から、ブッカー賞の変化についてまで詳しく話を聞いた。(編集部)

ブッカー賞の変化、グラフィック・ノベルの評価

――元々、どのようなきっかけでこちらの作品を知りましたか?

永野:弊社の出版物の6〜7割が海外文学なので、海外の文学賞は必ずチェックするんですね。そのうちのひとつに「ブッカー賞」というものがあるのですが、『サブリナ』が候補として残っていて、それがグラフィック・ノベルとしては初ということで、大きなニュースとなっていました。そのときに審査員の方が「こういうグラフィック・ノベル作品が候補作に入るのは、なんの不思議もないことだ」という趣旨のコメントをしていて、これはチェックしなければ! ということになりました。

――やはり、それはアメコミ映画がカルチャーの中心になるなど、時代の変化によるところは大きいのでしょうか?

永野:そうですね。、「ブッカー賞」自体も変化しています。元々、この賞はイギリス、そしてイギリス連邦などの一部の国の作家により書かれた作品が対象でした。それが2014年に「英語で書かれた小説作品」全体が対象になり、その結果アメリカの作品も多くノミネートされるようになりました。加えて今回はグラフィック・ノベルの初ノミネートです。グラフィック・ノベルの文学性というのも、この作品をきっかけに議論され話題となっていました。読んでみると、非常に現代性があり、これは今こそ日本で出すべき作品だと考え、版権を取得しました。

――内容もそうですが、賞自体の変化もあって、評価された作品ということですね。

永野:もちろん、これはグラフィック・ノベルといわゆる文芸小説のどちらが偉いとかそういうことではないのですが、グラフィック・ノベルに改めて注目しようという流れを文学読者のあいだに生んだ作品だと思います。

――永野さんは最初に作品を見たとき、どのように感じましたか?

永野:まずは画に戸惑いました(笑)。

――ですよね(笑)。表情ないじゃん! という……。

永野:日本の読者からは、そういう意見は多いですね。日本の一般的な「漫画」とはまったく違う描き方なので。コマ割りも規則正しいですし、人物もフラットに見えますよね。

――動きを描く感じでもないですし。グラフィック・ノベルを見慣れている人には問題ないかもしれないですが、漫画と思って読み始めたら戸惑うのは無理はないと思います。

永野:あとは正方形のコマ割り、そして抑えた色合いに非常に強い印象を受けました。そして内容。これはアメリカが舞台ですけど、こういうことは日本でもありえますよね。犯罪があって、その被害者家族が不当な注目やバッシングに晒されるという。それが真に迫っていて、惹きつけられました。この先、情報の流れや伝え方の変化はあったとしても「とある事件の波紋」という意味では、普遍的な人の心を描いている作品だと思いました。

――こういう悲劇は誰にでも起こりえますし。近年、映画でも『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のように、悲しみとの向き合い方を描く作品も増えている印象です。

永野:ある種の物語では、被害を受けた方が何らかの救済を得るという展開もありますが、もしこういう事態になったら、自分の中で折り合いをつけていくしかないのかなと。それをリアルに描き出した作品だと思います。

――またフラットに見える画が、意味を帯びてくるというのが、やるせなさや悲しさを倍増させます。

永野:淡々としているようで、構成がすごく考えられています。表情も読者がどのようにでも捉えられるようになっていて、この登場人物自身も感情がわかっていないという表情も描かれていて、考えさせられます。

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