『1日外出録ハンチョウ』こそ“持たざる独身中年男性”にとって最強のライフハックだ

ライフハックとしての『ハンチョウ』

 働く30〜40代の独身男性にとって、今もっとも共感できる実用的なライフハック漫画は、「カイジ」シリーズのスピンオフ作品『1日外出録ハンチョウ』ではないだろうか。グルメ、エンタメ、ファッション、恋愛、そして友情……お金も時間も地位も名誉もない“持たざる独身中年男性”が、豊かに楽しく生きるための術が、同作にはたっぷりと詰め込まれている。その多くは、ほんの少しのお金と気持ちの余裕さえあればすぐにでも実践できるものばかりで、独り身だって悪くないと思わせてくれるはずだ。

 同作の概要を簡単に説明すると、帝愛グループで借金をしまくった「劣悪債務者」が強制的に送られる地下労働施設で班長を務める男・大槻が、高額な「1日外出券」を使って地上へと行き、贅の限りを尽くすというもの。地下労働施設の環境は、ブラックという言葉で表現できないほど劣悪なもので、具体的に何を作っているのかは不明だが、とにかくハードな肉体労働を強いられた挙句に月収はたったの9万ペリカ(ペリカは地下世界の独自通貨。9万ペリカは日本円で約9000円)であり、しかも物価は地上の約2倍以上(缶ビール1本5000ペリカ!)もする。大槻はイカサマのチンチロリンや、地上で買い求めた物品を他の債務者にぼったくり価格で販売することで私腹を肥やし、50万ペリカもする1日外出券で何度も地上へ行っているのである。

 このように説明すると、大槻が金満家の悪漢のように思えるものの(実際、カイジたちの前では金満家の悪漢そのものだった)、地上に行った大槻は決して裕福ではない。そのため、少ない予算でいかに楽しむかを模索するのだが、その様子が実に“持たざる独身中年男性”の快楽のツボを心得ているのである。

 たとえば第1話では、タイムリミットのある1日外出にも関わらず、悠々と格安スーツで身なりを整えてから、新橋の立ち喰いそば屋へ。ランチどきで賑わうサラリーマンたちを前に、堂々とビールを飲むことで、一国の王の如し圧倒的な優越感を味わう。日比谷の各都道府県のアンテナショップを訪れた際は、北海道や福岡県といった人気観光地の店には目もくれず、あえて茨城のアンテナショップへ。ちゃんと現地の商工会の人々が応援にきていることを確認した上で、彼らが勧めてくれた「飲む焼き芋」など、珍しい食べ物に舌鼓を打つ。単に大枚をはたくのではなく、自分が今、本当に欲しているものは何か、どうすればもっと堪能できるのかを考えて、ベストな選択をするのが大槻という男なのだ。

 大槻がその才覚を発揮するのは、食べ物に関してだけではない。せっかくの1日外出にも関わらず、風邪を引いてしまう予感がした大槻は、その日の予定をすぐに変更し、デイリーマンションへ行って「長ネギと生姜たっぷりつみれ鍋」をこしらえる。鍋で身体を芯から温めたあとは、水を張ったバケツに新聞紙を詰め込んだ“簡易加湿器”を準備し、すぐに就寝。たった半日で完全復活してみせた。

 商才もなかなかのもので、地下で人気のお菓子「柿ピー」のサブスクリプションサービスを開始したり(契約は半年単位の自動更新で「柿ピー」に飽きた債務者たちも逃さない)、地下施設の食堂に置かれたミキサーに目をつけて新商品の「スムージーパック」を開発するなど、単に債務者から巻き上げるだけではない、新たなニーズを生み出すサービスを提供している。



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