『1日外出録ハンチョウ』こそ“持たざる独身中年男性”にとって最強のライフハックだ

ライフハックとしての『ハンチョウ』

 舎弟分である沼川、石和、監視役である宮本らとの友情もまた、本作に心温まる奥行きを与えている。夏祭りに行ったり、スーパー銭湯に行ったり、ファミレスでたわいのない話を延々と続けたり。宮本の自宅で誕生日を祝う餃子パーティーをした際などは、石和が「ずっとこういう日が続けばいい」と思ったばかりに、時空の間に迷い込んで何度も同じ1日をループしてしまったほどだ(同作にはときどき、気まぐれにSF要素が投げ込まれたりもするが、あの『美味しんぼ』でさえタイムワープする回があったのだから問題あるまい)。

 特に、エンタメや恋に関する地下労働者たちのやり取りは微笑ましく、同世代なら思わずニヤリとしてしまうはずだ。ろくに働かずに漫画ばかりを読みすぎて地下落ちした森口、映画マニアで地下映画館を開館したC班班長の小田切といった面々と、夜通し行われるマニアックな漫画談義や甘酸っぱい恋バナの模様は、まるで男子校の放課後を見ているかのようで、そこが地下労働施設であることをひととき忘れさせてくれるのである。

 「毎日、家と職場を往復するだけで、休日になにをしていいのかわからない」、「もう良い歳なのに、お金もないし彼女もいないしで人生最悪」、「友達がおっさんしかいない」と嘆く独身中年男性の諸君こそ、ぜひ『1日外出録ハンチョウ』を手にとって読んでみてほしい。いつもは地下にいる大槻たちでさえ人生を謳歌しているのだから、地上にいる我々はすでに有り余るほどの“僥倖”を手にしていると気づくことができるはずである。

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