阿佐ヶ谷姉妹は“おばさん”の楽しみ方を教えてくれる 『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』を読んで

売れても変わらない阿佐ヶ谷姉妹の生活

 20代後半のある日、自分の頭に白い毛があるのを見つけた。老いが迫っていることを実感せざるを得ない出来事だった。そのときはっきりと、私は歳をとるのが恐いと思った。

 『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』に出会ったのは、そんな老いへの漠然とした不安を抱えているときだった。帯には〈40代・独身・女芸人の地味おもしろい同居生活〉と書かれている。テレビで活躍している彼女たちの生活は、本当に地味なのだろうかと気になって手に取った。

 エッセイは、取り留めのない題材で埋め尽くされている。南向きで日当たりのいい部屋。ミホさんお気に入りのヤンバルクイナ柄の台ふきん。近所にある、女将さんを亡くした旦那さんが切り盛りする中華定食屋さん「朝陽」。ご近所さんがおすそわけしてくれる美味しい餃子。ホームクリーニングで洗っている(芸能人なのにホームクリーニング!)姉妹のトレンドマークであるピンクのドレス。

 各章の合間に写真が挟まっているのだが、どうにもこうにも“おばさん1000%”で笑いを誘う。まず自撮りが劇的に下手だ。顔が半分見切れているエリコさんの自撮りは、「おばさんが撮っているんだな……」と一目で思わせる達人技すら感じさせる。「あ~差したい」という項では〈差し靴下いろいろ。〉とカラフルな靴下の写真を載せているのだが、残念ながら紙面では白黒になっている。色を見せたいのに、白黒写真。ここでもおばさんクオリティが炸裂。

 姉妹の日常には派手なことは何も起きない。だがそれは、読んでいるこちら側もそうではないか。サザエさん、ちびまる子ちゃん、クレヨンしんちゃん。私たちはいつの時代も日常と地続きの物語に惹かれてきた。地味であることは、心からほっとできて安心という意味も内包しているのだろう。読み進めていくうち、私は姉妹と3人で阿佐ヶ谷に住んでいたのではないかと、段々と思えてくるから不思議だ。

 今、目の前にある幸せにきちんと目を向けること。一日いちにちを慈しんで過ごしていくこと。エッセイに描かれた姉妹の生活は、読むだけでクスッと笑えて「こういう生き方があってもいいんだな」と思わせてくれる。

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