ナイツ・塙が語る、大阪芸人が賞レースで強いワケ 「ライブとM-1のお客さんでは笑うポイントが違う」

ナイツ塙が今年のM-1で注目する芸人とは?

 ナイツ・塙宣之の著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』についてのインタビュー後編。前編では、M-1論やお笑い論、そして芸人の辞めどきについても言及した。後編では塙から見たM-1の系譜や、大阪の芸人の強さの要因、そして今年のM-1で注目している芸人まで。さらに深掘りした内容となっている。(編集部)

前編:ナイツ 塙が語る、M-1論と芸人の辞めどき 「40歳くらいの芸人はみんな悩んでる」

結成15年以内だと若手は出にくい

――塙さんも本の中に書かれていたように、2015年からの『M-1』は出場資格の区切り(結成10年以内→15年以内)が変更になったことで、大会の本質そのものが大きく変わったんですよね。

塙:2001年、『M-1グランプリ』(テレビ朝日)が始まったときは、中川家、ますだおかだ、アメリカザリガニ、ハリガネロックと、『爆笑オンエアバトル』(NHK)や大阪の劇場で結果を残しているけど、全国区になってない芸人が溜まっていたわけで、そこが一気に世に出たのが第一回大会だったんですよ。で、その辺りが2004年くらいからいなくなってきて、大会に求められるものも「巧さ」から「新しさ」に変わってきて、笑い飯やスリムクラブ、僕らやオードリーみたいな変化球のスタイルがどんどん出てきましたよね。2010年から5年間やらなかったなかで、また実力者が溜まってきたうえ、出場年数も伸びたことで、2015年大会ではトレンディエンジェル、スーパーマラドーナ、とろサーモン、と“売れる寸前”の実力派芸人が続々出てきたんです。だから、2015年以降の大会についても、あと何年かしたら変わると思いますよ。

――やり続けないと出てこないものがあると。そういう意味では2018年の大会は転換期だったのかもしれないですね。

塙:霜降り明星が優勝しましたからね。でも、霜降り明星以外は、ギャロップや見取り図のように、10年以上やってるコンビでしたから。『キングオブコント』(TBSテレビ)でハナコが優勝して、次の時代にいくんだと思ったら2019年にどぶろっくが優勝するわけなので、まだまだ世代交代とは言えないですよ(笑)。実際、宮下草薙と四千頭身と和牛やかまいたちでは、巧さの差が一目瞭然だったりするじないですか。

――なるほど。参加条件が結成10年と15年ではまったく大会の質が変わりますよね。

塙:僕らが『THE MANZAI』(フジテレビ)で準優勝したのが10年目なんですけど、あのぐらいが色々経て上手くなる時期だし、賞レースの勝ち方がわかってくるんです。そう考えると、やっぱり15年って若手が出にくい基準じゃないかと思っちゃいますね。

――2018年の『M-1』では審査員側に立ったわけですが、裏側を見たことで初めて気づいたことはありますか?

塙:やっぱり審査員のギャラの方が格段にいいですね(笑)。出る側は頑張って一年ネタを磨いて、エントリー料を払ってるのに、座ってるだけでこんなに貰っていいんだと思いました。

――あそこに座ることで、視聴者からの批判も含め、人の人生を背負う点数付けをするわけですから。

塙:まあ、そうですけどね。でも、審査員としてはそこまで気負いはありませんでした。

ーーやはり「出場する側」は格段に緊張の度合いが違いますか。

塙:そうですね。スタッフも関係者も多いし、現場入りも早いし、決勝まで行くと毎日のように取材されてプレッシャーがかかるし、当日セットと客席を見て「本当にあのネタで大丈夫かな? くだらないボケじゃないか?」という不安が一気に襲ってくるんです。だから僕はよく言うんですけど、『SASUKE』の山田勝己みたいに、自宅や郊外に本番と全く同じ器具を作れば良いんですよ。せり上がりのセットを作って、ファットボーイ・スリムを流して、審査員席に上沼恵美子さんのモノマネをする天才ピアニスト・ますみを座らせて(笑)。

――確かに、本番に強くなるかもしれません(笑)。

塙:真面目なことを言うと、大阪の芸人が強いのって、『ABCお笑いグランプリ』(朝日放送)や『ytv漫才新人大賞』(読売テレビ)のように、豪華なセットで仕上げたテレビの賞レースがあって、それを経験しているコンビがいるということなんですよ。実際、霜降り明星も『ytv』で優勝したその年に『M-1』を獲ったわけで。東京の芸人はそこを経ずに、新宿Fu-とかのライブで調整しようとするけど、ライブのお客さんとM-1のお客さんでは笑うポイントが違うから、まったく調整にならないんですよ。

――ライブに重きを置きすぎて、客いじりを含めたライブハウス規模の漫才になっちゃったり。

塙:そう。だからこそ劇場へ初見の団体さんが来る吉本が有利なんです。劇場で本番ネタをかけるとしても、ちゃんとしたネタじゃないと受けないから、本格的な調整をすることができる。

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