『青春の十字路』から『パラサイト』まで……『韓国映画100選』が伝える、戦いの映画史
今の時代に光る「忖度」しない表現
編者にあたる「韓国映像資料院」とは貴重な文化遺産である映像資料を、国家が収集・復元する韓国で唯一の機構として1974年に設立され、韓国映画研究と普及を推進する国立の機関とのこと。個人的にいえばそのセレクトに「なぜに『息もできない』がない!?」とも思ったりもするのはおいて置き、一見お堅い感じな選出のなかでもポン・ジュノの監督作品である『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』などがキッチリ入ってる点がうれしいし、先にも述べたように『シュリ』以前のまだ見ぬ韓国映画の名作たちが大量に紹介されている。
南北問題のみならず政治の腐敗など、韓国という国が現在も抱える問題にまったく忖度することなく躊躇なく切り込みつつも、エンターテイメントとしてキッチリ成立させる力量をもった韓国映画。そのルーツを探るにはもってこいの一冊だ。当時の支配国・日本や軍事政権などの権力に対し歴代の監督、映画人たちがせめぎあって勝ち取ってきた「表現」という名の戦いの歴史物語を見るような気持にもなれる書物である。
最後の最後に紹介されるのは話題作『パラサイト 半地下の家族』だが、第72回カンヌ国際映画祭<最高賞>パルムドールを受賞し、第92回アカデミー賞の国際長編映画賞候補作にも選出され、受賞が有力視されている。なんでも米国市場で最も興行収入をあげた外国語作品とのことだ。監督ポン・ジュノはかつての朴槿恵(パク・クネ)政権時代、政権に不都合な文化人に不利益を与えるとする「文化芸術界のブラックリスト」に入れられていた過去をもち、彼はその悪夢の時代が深いトラウマとなってるとのこと。そのような状況下で制作されてきた作品たちには監督の芯の強さや覚悟やプライドがこもり、忖度ばかりしてる我が国には計り知れない深みがあるではないか。かつてハリウッドに追いつけ追い越せでクオリティを上げ続けてきた韓国映画は、いまや世界が注目している存在だ。いや、もうそれはかなり前からそうなのだ。いくらどこかの国の政府やメディアが嫌韓を煽ろうともびくともしない。そんなパワーが韓国映画にはある。韓国映画の未来は明るい。そして過去は深い。
■恒遠聖文(つねとお・きよふみ)
73年生まれ。ライター。音楽雑誌を中心に幅広く執筆。
■書籍情報
『韓国映画100選』
韓国映像資料院 編集、桑畑優香 訳
価格:3,850円(税込)
出版社:クオン
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