『青春の十字路』から『パラサイト』まで……『韓国映画100選』が伝える、戦いの映画史

『青春の十字路』から『パラサイト』まで……『韓国映画100選』が伝える、戦いの映画史

『シュリ』以前の韓国映画とは?

 「いや、最後はやっぱり助かるでしょ?」ってな、こちらの期待を踏みにじってあっさり人が死ぬ。ヒロインも死ぬし、子供も死ぬし、罪のなき善人たちが死にまくる。人質は助からないし犯人も捕まらないことが多々あり。親子は生き別れ、ハッピーエンドとは程遠いバッドエンドな結末。また、やみくもに拳銃乱射じゃなく、棒や鈍器でぶん殴ったりガラスで刺したりするからリアルに痛みも伝わる暴力描写たち。役者の演技も素晴らしく、殺人鬼から近所の人のいいおっさんまでもを見事に演じきり「これあの映画と同じ人?」って思うこともよくある。

 そう、それが韓国映画だ。

 ”容赦なき”……そのように実に的確に表現される韓国の映画に魅せられて、心を奪われてから思えばもう長い時が経過した。どんな映画を観ても韓国映画と比較してしまう病にもかかってまだ治らずにいる。初めてその世界に足を踏み入れた時、それまで韓流ドラマやK-POPのクオリティの高さ、世界水準っぷりはうっすら知ってたものの、ここまで強烈に我々の五感を刺激しまくり、脳を揺すぶり、心臓をわしづかみにするような作品が隣国で連発されていることが衝撃であった。特に2000年以降の作品は名作ぞろい。どれを観ても「大当たり」の連続。心にずっしりと大きななにか残してくれ、見ごたえがありすぎるものばかり。近年でも『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)、『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)、そして、大絶賛公開中の『パラサイト 半地下の家族』(2019)などのモンスター級の衝撃作を韓国映画界は年に何本も生み出し続けている。

 さて、そんな「韓流」とはまた別口の「韓国映画」というジャンルだが、我が国で一般的に愛されるようになり、世界的にも話題となるようになったのは1999年の作品『シュリ』からではないだろうか。北朝鮮工作員と韓国諜報部員との悲恋を描き、壮絶なアクションシーンが高く評価された本作は、韓国映画界がハリウッドと肩を並べる高水準でオリジナリティのある作品をクリエイトするようになったキッカケを作った映画であり、観客動員数でも当時の記録を樹立し一種の社会現象を巻き起こした。

 だがしかし、考えてみれば、この『シュリ』以前の韓国の映画はよほどのマニア以外には知られていない。隣国だというのにこれはあまりにも不思議なことである。日本人と香港映画との付き合いはもっと長く深いのにこれは何故だろうか。日本における「黒澤映画」や「小津映画」にあたる韓国映画はいったいどのような作品であるかも知らないし、『男はつらいよ』や『仁義なき戦い』にあたるような映画もわからない。チェ・ミンシク、ソン・ガンホ、ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、イ・ビョンホン、ウォンビン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソク……などと我々になじみ深い俳優陣の年齢も40代~50代であり、不思議なことにそれより上の大物俳優はほとんど知られていないではないか。実際、韓国映画を日頃みてても高齢の役者が現れることは少なく、『黒く濁る村』(2010)にいたっては村長の老人役を当時30代のチョン・ジェヨンが特殊メイクまでほどこして演じている。はたして『シュリ』以前の韓国映画というものはどんな作風だったのだろうか? またポン・ジュノやキム・ギドク、パク・チャヌク、イ・チャンドン以前にはどんな監督がいたのだろうか?

 そんな我々の疑問に答えてくれるのが本書『韓国映画100選』だ。韓国映画の代表作を取り上げたこの本は、韓国の映画専門家67名による評論集である。現存する最古の作品(『青春の十字路』1934年製作)からはじまる101作品に加えて、日本版では原書刊行後に製作された5作品(ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』含む)が新たに加えられている。1919年から1945年までの日本統治時代からはじまり、そこからの解放、軍事政権とのせめぎ合い、民主化、南北分断、女性解放などの歴史的な背景が作品を通してよくわかり、韓国映画史のみならず韓国の文化史や世相の移り変わりを追うことができ、現代の韓国を紐解く決定書となっている。映画のガイドブックにはとどまらない韓国のガイドブックとしても楽しめる内容と言ってもよいであろう。

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