『ファクトフルネス』ロングセラーの一因はオリラジ中田のYouTubeか? 今週のビジネス書ランキングを考察

『FACTFULNESS』ランキング1位に返り咲き

 しかし、著名人によるYouTubeはそれとは異なるムーヴメントの表れなのである。情報が溢れる現代の消費者は賢いし慎重だ。出版社が売るためだけに資本を投じた広告になど、簡単には目を貸さない。いまだにイメージは重要だが、コマーシャルで起用されるタレントが薦める商品を無意識に購入したりはしないのだ。

 そこで、読書家であり教養があるイメージの著名人が、自ら読んだ推し本を紹介したらどうなるだろう? 利害関係のない知り合いの口コミが、経済を動かすのは周知の通りだ。その紹介者が著名人で、繰り返しYouTubeで動画が観られる環境であれば、どんな結果が起こるのかは想像に難くない。

 そんな出版社も知らないところで書籍を紹介し、読者による市場在庫の取り合いまで引き起こす影響力を持つのが、上述の中田敦彦氏やメンタリストのDaiGo氏などだ。DaiGo氏も過去にはYouTubeによる紹介で、『マインドセット「やればできる! 」の研究』や『プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える』など数々の書籍をヒット作へと導いた実績がある。ビジネス書作家としての活動のみならず、自らが気に入った書籍の紹介にこだわりが強いことでも知られている。

 ここで、『ファクトフルネス』や他の読み応えのあるビジネス書が、彼らの紹介とマッチする理由をもう少し考えたい。確かに、笑いや心理のプロである彼らの語りは、それ自体がエンタテインメント性も高く、視る者の興味を惹きつける。しかし、YouTubeの視聴者が紹介本を購入し読むに至るのはそれだけが理由だろうか?

 もしかしたら、これは双方の知識を求める謙虚な姿勢と、それを他者と共有したいという熱情によるものなのかもしれない。「学者」や「経営者」が「新聞」で「書評」した、と言うような既存の権威や資本から離れた行為に、視聴者が信用と共感を示していることは、エビデンスが重要視されるビジネス書業界に吹く新たな風を感じさせてくれる。

 ソクラテスがご神託を受け、「無知の知」を自覚する以前から、人は知を求めている。世界の動きを謙虚に見据え、読者の脳内アップデートを示唆する『ファクトフルネス』が日本中で読まれている事実に、書籍と人間本来の姿を重ねることは楽観に過ぎるだろうか。

(文=MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店・社会書担当 中田英志郎)

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