東方神起ユンホも共感 『あやうく一生懸命生きるところだった』が描く、韓国のオルタナティブな一面

オルタナティブな韓国を描いた一冊

 この本は、東方神起のユンホが読んだと言われているが、ただ「読んだ」という事実以上に象徴的なことのように思えた。韓国のアイドルというものは、「一生懸命」なんて言葉で簡単に語れないほどに「一生懸命」を子どもの頃から続けて、やっとそのひと握りだけが達することのできる境地であり、ユンホはその中でも代表格のような人である。

 また、これはこの本の中に書かれているわけではないが、ユンホが子どものころ、1997年のIMF危機により父親の仕事がままならず苦労したということは、各所でユンホ自身が語っていることである(ちなみにユンホは1986年生まれだ)。

 そんな風に懸命すぎるくらいに生きた人たちが、その上でたどり着いた、というか見つけた「オルタナティブな生き方」が、「一生懸命に生きないということについてふと考えてみた」ということなのだと考えて読むと、この本がより一層、興味深く感じられるだろう。

 さきほど、私は「一生懸命をやめよう」ということに関しては日本のほうが進んでいると書いたが、この本にも村上春樹の『風の歌を聴け』や、ドラマとして有名な原作・久住昌之、作画・谷口ジローの『孤独のグルメ』や、是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』など日本の映画や小説などの作品名が度々出てくる。

 特に『孤独のグルメ』については、韓国で大人気で、2018年に韓国のソウルドラマアワードで最も人気のある海外ドラマに選ばれている。実際、韓国の知人から、「日本にはひとりでご飯が食べられるところがあってうらやましい」と言われたことがあるし、韓国のアイドルや俳優が10年くらい前から、食券を買って食べるチェーン店や、一蘭のように仕切られてひとりで食べるシステムが面白いと言っていると聞いたことがある。そんな人たちが『孤独のグルメ』の韓国人気を支えている面もあるのだろう。韓国でスタバやカフェが一気に広まったり、昼のランチよりも高い値段でもカフェでコーヒーを飲みたいというのも、こうしたひとりの時間が過ごせるということが大きいとも聞いたことがある。

 こうした韓国にある、もう一つの空気が知れるのが、この本の特徴でもある。韓国の映画や昨今の本では、韓国のシビアな面がフィーチャーされがちだが、この『あやうく一生懸命生きるところだった』では、韓国のオルタナティブな一面が垣間見える。そして、それは日本の文化を外から見ることにつながったりもしているのだ。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■書籍情報
『あやうく一生懸命生きるところだった』
著者:ハ・ワン
翻訳:岡崎暢子
出版社:ダイヤモンド社
価格:本体1,450円+税
<発売中>
https://www.diamond.co.jp/book/9784478108659.html

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