飯田一史が注目のWeb漫画を考察
Netflixドラマ化の韓国Webマンガ『恋するアプリ』と『PSYCHO-PASS』の共通点とは?
カカオジャパンが運営するマンガアプリ「ピッコマ」で配信中のウェブトゥーン(縦スクロールコミック)であるKYE YOUNG CHON作の『恋するアプリ』は韓国のDaumWebtoonというプラットフォームに連載され、2019年にNetflixでドラマ化され、好評につきシーズン2制作も決定している人気作だ。
タイトルのとおりラブストーリーであるが、実はアニメ『PSYCHO-PASS』にも通じるハードで社会的なテーマを扱っている。
恋心が通知されるアプリが普及した世界を描いたラブストーリー、なのだが……
この作品では、「ラブアラーム」という「自分の恋心を相手に通知する」アプリが開発される。半径10メートル以内に想い人がおり、その人もラブアラームをインストールしていると、その気持ちが相手に伝わるのだ。誰が自分のことを好きなのかという名前まではわからないが、何度も接近をくりかえしたりするうちに自然と誰なのかは特定される。このアプリが爆発的に流行し、若者はほぼすべての人が使っている状態になる。
自分が恋している相手が自分のことを好きなのか好きじゃないのかわからないがゆえの駆け引きやすれ違い、勘違いを描いたラブストーリーは無数に描かれてきたが、この作品は「あいつは俺のことが好き」が完全にわかる状態からスタートする。
ラブアラームがあまりにも普及した結果、人々は誰もがラブアラームで通知されたことをもって「あの人は自分のことが好きなんだ」と知り、実感するようになる。逆に言えば、アラームが鳴り、アプリ上にハートマークが表示されなければ「あの人、私のこと好きじゃないんだ」と思う。
ところが主人公の女子高生ジョジョは、あるきっかけから「盾」を全ユーザーの中で唯一手に入れた存在になる。自分の恋心が一切誰にも通知されない機能が「盾」だ。
ただし、これは一度使うと二度と解除できない。ジョジョは好きな人間を前にしても、絶対にジョジョ側からは「あなたのことが好き」とアラームを通じて伝えることはできない。相手はラブアラームの反応からは「愛されている」と実感できない。
ここが作品のキモだ。
ラブアラームが当たり前のものになると、このアプリが存在する前は誰もがしていた「本当に好きなの?」という確認の言葉を交わし合うこともなくなるし、「この人は自分のことを好きなんだろうな」という推測すらも、誰もしなくなる。アプリが知らせてくれるからだ。
みんなアプリの反応を自分の気持ちよりも信じ、相手の行動から相手の気持ちを想像するということを放棄してしまうのだ。アプリの反応こそが真実にして真理だということを疑いなく受け入れてしまう。
ここが『PSYCHO-PASS』をはじめとする現代日本SFが扱ってきた問題系と通じる点だ。