HACHI、まだ見ぬ人々と全世界へ向けて響く歌 ツアー『for ASTRA.』で繋いだバーチャルとリアルの境目

HACHI、ツアー『for ASTRA.』レポ

 バーチャルシンガーのHACHIが、『HACHI Zepp Live Tour 2024 “for ASTRA.”』の東京公演を、2024年12月14日にZepp Shinjuku (TOKYO)で開催した。

 同年11月にリリースされた3rdアルバム『for ASTRA.』で、メジャーデビューを果たしたHACHI。本作品は、宇宙探査機“ボイジャー”に搭載されたゴールデンレコード(地球外知的生命体へ地球の文化を伝えるため、世界各国の音楽などが収録されたレコード盤)をモチーフに制作されたという。願いを込めた小さなレコード盤を広大な宇宙へ放つように、この夜、HACHIの音楽は東京の真ん中のZepp Shinjuku (TOKYO)から、まだ見ぬ人々を含めた全世界へ向けて送り出されたのである。

 幕開けは、最新アルバム収録の「スウィングバイ」。明るく疾走感のあるナンバーを歌い上げ、これから始まるライブへの期待を高めていく。HACHIは、本公演のために仕立てたという、白いブラウスにビスチェ、ショートパンツというスタイルの衣装で登場。黄色のペンライトの光で埋め尽くされたフロアからは、開幕早々BEES(ファンの呼称)の大歓声が沸き起こる。曲の終盤には「みんなで一緒に歌うぞー!」というHACHIの扇動で、あたたかなシンガロングが始まり、序盤にもかかわらず強い一体感がすでに生まれていた。

『HACHI Zepp Live Tour 2024 “for ASTRA.”』(提供=RK MUSIC)

 その後も、静かな夜の幻想空間にHACHIの伸びやかな歌声が広がる「バスタイムプラネタリウム (gaze//he’s me remix)」、赤い照明に包まれた艶っぽい空間で大人な表情を見せた「DIVE」などを披露し、観客を魅了していく。

 ライブ全体を通して、ステージには近未来的な建造物が立体的なステージセットとして映し出され、その背後には曲に合わせた演出が流れる仕様になっていた。そのため、HACHIの音楽とともに、無数の星が飛び交う宇宙空間や、ホログリッターの光が瞬くプラネタリウムなどを旅しているような感覚に陥る。また、天井や足元に設置された照明による光と影の演出は、HACHIの艶やかな肌や柔らかい髪まで立体的に映し出し、バーチャルとリアルの境目を消し去っていた。

 MCでは、「みなさん、こんはちー!」と満面の笑顔で元気に観客に手を振り、「1年ぶりにライブハウスに帰ってきました! めちゃめちゃ人いるなあ、嬉しい!」「この衣装、かわいいでしょ?」と無邪気にはしゃぐ。話し出すと、曲中とは一変して親しみやすい雰囲気になるのも、HACHIの魅力のひとつだ。

 ライブバージョンのアレンジで歌ったロックチューン「夜迷い言」では、観客が手拍子を繰り出したり拳を突き上げたりとフロアのボルテージも急上昇。その熱がHACHIにも伝染したのか、歌にこもる感情もどんどん強くなっていく。ダンサブルな「20(DJ WILDPARTY remix)」では、軽やかなステップを踏んだり、上手から下手までステージを自由に動き回ったりしながら無邪気な笑顔を見せ、「踊って踊って!」「最高!」と思わず叫ぶ場面も。生ライブならではの熱量も存分に味わえた瞬間だ。

『HACHI Zepp Live Tour 2024 “for ASTRA.”』(提供=RK MUSIC)

 ダウナーな雰囲気漂う「Deep Sleep Sheep」、R&Bテイストで新たな一面を開花させた「√64」など幅広いジャンルの楽曲を聴かせたあとは、夏のバラード三部作として「万華鏡」「ビー玉」「夏灯篭」を続けて披露。極彩色の美しい万華鏡の模様、ノスタルジックな田舎の夏景色、真っ赤な灯篭が浮かび上がる光景。大迫力の全面スクリーンに映し出される情景は、楽曲の世界へと観客を深く没入させていく。

 そして、それらのこだわりの演出に決して負けないのが、HACHIの歌声だ。重厚なバラードソング「万有引力」や「VESTIGIA」では、力強いという言葉では表現しきれないすさまじい声量が会場に広がる。真っ赤なマグマや宇宙に漂う無数の塵、空を這う稲妻など、荒廃した終末世界を想起させる情景とも均衡するHACHIの歌声からは、神々しさすら感じる。その声と情景がひとつになって作り上げられたステージは、まさに総合芸術。壮大なスケール感で観客を圧倒した。

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