花譜/廻花、VALIS、夢限大みゅーたいぷ……バーチャルとリアル、“自分の姿を最適化”していく表現
VTuberの活躍などをきっかけに、近年様々な場所で目にすることが増えたバーチャルエンターテインメントの数々。こうしたエンタメは、人々の“なりたい自分でいること”を実現する一つの方法として注目を集めて久しい。その中でも、近年にわかに増加傾向にあるのが、バーチャルとリアルの両方の姿で活動するタレントたちだ。音楽面でその最先端を走るのは、花譜を筆頭としたKAMITSUBAKI STUDIOのバーチャルシンガーたちだろう。
同事務所の所属アーティストはもともと多彩な形態で活動しており、花譜の場合は、2018年に始まったバーチャルシンガーの活動に加えて、花譜の歌声を基にした音声合成ソフトウェアの音楽的同位体・可不(KAFU)、大沢伸一のソロプロジェクト・MONDO GROSSOとの楽曲「わたしの声」でお披露目したフォトリアルな外見の“VIRTUAL HUMAN KAF”など、様々な展開や活動を実現。また、リスナーとの双方向的なやりとりの中で物語を展開したIPプロジェクト『神椿市建設中。』では、花譜を筆頭に同レーベル所属のメンバーが集結したグループ V.W.Pの面々がそれぞれにキャラクターを演じ、2次元コンテンツに双方向性を加えた現在のバーチャルエンタメならではの、先の読めないストーリーテリングの魅力を伝えてくれるようだった。
そして、今年1月に国立代々木競技場 第一体育館で開催された『花譜 4th ONE-MAN LIVE「怪歌」』(※1)では、花譜の“オリジン”(=生身の姿)が現実世界で活動するバーチャルシンガーソングライター・廻花(かいか)の活動も開始。廻花名義の楽曲は彼女自身が作詞作曲を担当している。4月にリリースされた1stシングル『かいか』では、花譜に通じる歌声を持ちつつも、様々なクリエイターの集合体でもある彼女の曲とは異なる、より廻花自身の魅力に焦点を当てた作品となっている。中でも〈生まれる前からきみを知っている/初めまして うまく言えないのはお互いさまなんだろうな〉という歌詞は、花譜の活動の裏側に実は常に存在していた、もうひとりの彼女からの改めての挨拶のようで非常に感動的だった。
ここで大切なのは、こうした多岐にわたる活動形態は、それぞれがあくまで花譜の「可能性のひとつ」であること。ゆるく「≒」で繋がれた多くの名義/形態は、すべてが彼女自身の魅力を反映/拡張させたものであり、同時に彼女自身とは異なるまた別の何かでもある。ひとりのアーティストが持つ可能性の一つひとつに焦点を当てて、テクノロジーとアイデアによってそれを最大化することで、アーティストの可能性をより広げているのだ。
たとえば近年、ゲームの世界でもマルチなプレイ環境に対応した作品は多く存在し、外ではスマートフォンやタブレットで、家ではPCで……など、同じ作品を端末ごとに最適化されたUI(User Interface/ユーザーインターフェース)でプレイすることも増えている。そういう意味では、バーチャルとリアルを横断する試みもまた、同じように活動場所によって自らの姿を変化させ、「表現したいこと/成し遂げたい目標に最も適した自分でいたい」という気持ちの表れかもしれない。
こうした試みは、様々な場所で広がっている。KAMITSUBAKI STUDIO内のレーベル・SINSEKAI RECORDのバーチャルガールズグループ VALISは、アバターの姿で活動をスタートし仮想空間のフェスなどに出演する一方で、2021年のワンマンライブ『1st ONE-MAN LIVE「拡張メタモルフォーゼ」』以降は、バーチャルでの活動に加えて、オリジンの姿での活動も並行する形態にシフト。バーチャルならではの演出やストーリー性とはまた違った、生身ならではの高いダンススキルや臨場感で観客を魅了している。
一方、アニメやゲームでキャラクターボイス(CV)を担当する声優陣がリアルライブでの歌/演奏を担当し、VTuber文化とは別の形で次元の壁を越える活動を続けてきた『BanG Dream!』(以下、『バンドリ!』)では、バーチャル系新バンド 夢限大みゅーたいぷが昨年デビュー。メンバーそれぞれが個人のYouTubeチャンネルを持ち、VTuberのようにLive2D形式での配信を行う新たな活動形態にチャレンジ。作り込まれた作品を通してバンドの成長を描くTVアニメやゲームとは異なる、リアルタイムでの双方向的な活動がシリーズに新鮮な魅力を加えている。8月24日のには1stライブ『めたもるふぉーぜ』が開催される。