にしなは一人ひとりに向き合い光を照らす ツアー『SUPER COMPLEX』で伝えたかったこと、そのすべて

にしな、ツアー『SUPER COMPLEX』レポ

 11月10日のZepp Sapporoに始まり、全国を巡ってきたにしなの『ZEPP TOUR 2024「SUPER COMPLEX」』。ここにお届けするのはその東京公演、Zepp DiverCity(TOKYO)での11月27日のライブの模様である。

Photo by Tatsuki Nakata
Photo by Yosuke Kamiyama

 会場に入ると、ステージのスクリーンにCGで描かれた『SUPER COMPLEX』の文字が目に飛び込んできた。ところで『SUPER COMPLEX』という、字面がめちゃくちゃかっこいいこの言葉の意味するところはなんだろうか。思いっきり直訳すると「超コンプレックス」ということなのだが、実は化学用語で細胞のミトコンドリアのなかにある「超複合体」を指すのだという。その「超複合体」は、生物の体がエネルギーのやり取りをしたりするのにいろいろ超重要らしい。「いろいろ超重要」とか言っていることからもわかるとおり、それ以上のことは筆者にはまったく理解できていない。だが、コンプレックスという、それ単体で言えばネガティブなイメージもある言葉が、体にとってめちゃくちゃ重要な機能を果たしてもいるという構図は、もしかしたらにしなの音楽に通じる部分があるのかもな、と思う。

Photo by Yosuke Kamiyama
Photo by Tatsuki Nakata

 さて、そんな『SUPER COMPLEX』のライブは、合成音声による「スーパーコンプレックス」の説明アナウンスから始まる。「細胞分裂を繰り返すように、どうぞご自由に歌い、踊り、焼き付けていってください」という言葉とオープニングの映像に続いて披露された1曲目は「plum」。薄暗い照明に照らされたステージににしなとバンドメンバーのシルエットが浮かび上がり、にしなが手にしたLED内蔵のグッズが眩い光を放つ。そのグッズはもちろん多くのオーディエンスも同じものを持っていて、フロアでも同じように白い光がキラキラと瞬いている。続く「bugs」でもオーディエンスによる光の演出がとてもロマンティックに広がった。最初は正直「あれ、暗いな」と思ったが、こうやって一人ひとりの光で場内を照らし出すことが、このオープニングの意図だったのだ。

Photo by Yosuke Kamiyama

 ますますバンドのグルーヴが色濃くなったように感じる「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」を経て、けたたましいギターとドラムが鳴り渡る。にしなもギターを弾きながら歌うのは「スローモーション」だ。バンドの演奏はもちろん、にしなの歌にも熱くて濃い感情が宿る。パッとステージが白い光に包まれて歌われた最後のサビは、とても美しくエモーショナルだった。続く「夜になって」も情感たっぷりに届けられた。

Photo by Yosuke Kamiyama

 その「夜になって」を終えて、にしながフロアに話しかける。その言葉によると、今回のツアーは「ちょっと薄暗めのステージを用意した」ということらしい。それは「人の目を気にせず楽しんでもらえたらな」という彼女の想いの表れであり、冒頭のアナウンスにあった「ご自由に」のメッセージを体現するためのものだった。自分ひとりだけでにしなと向き合い、その音楽を味わう時間――だからといって、ライブ自体は決して地味なわけではない。スクリーンに歌詞が映し出されるなか披露された「真白」で肩を揺らし首を振りながらギターをかき鳴らし歌うにしなの姿には、とてもドラマティックな感情の動きを感じることができた。

Photo by Tatsuki Nakata

 不思議な映像に目を奪われた「debbie」、薄暗いフロアに力強いサウンドが鳴り響いた「透明な黒と鉄分のある赤」を経て、語りかけるような歌がまっすぐに心に飛び込んでくる「ワンルーム」へ。表現の仕方はさまざまだが、この密閉されたライブハウスという薄暗い空間のなか、いっそうダイレクトにその温度や揺れ動く心が伝わってくるという点はどれも同じだ。それをより強く感じたのが続く「ヘビースモーク」だ。心の奥底を炙り出すようなこの曲も、この空間、このムードのなかで聴くと、さらに深いところにある心情を浮かび上がらせるように聴こえてくる。オーディエンスもじっと聴き入り、その歌に込められた激情に自らをシンクロさせているように見える。

Photo by Tatsuki Nakata

 「ここまでクールな感じでやってきたんですけど、ここからはみんなのパワーを発揮してもらうパートに入っていきます」。そう宣言し、バンドメンバーを紹介するにしな。そして「みんなで一緒に歌いたいな」と披露されたのは「It's a piece of cake」だ。手拍子と「ラララ」の歌声でZepp DiverCityに一体感をもたらしたこの曲から、ライブは一気にその色合いを変えていく。みんなでしっぽを振り回した「ケダモノのフレンズ」に続き、「ランデブー」では再度オーディエンスが掲げた光が美しい景色を生み出す。最初の“ひとり”で音楽に向き合うような時間から、その“ひとり”がつながってひとつの景色を生み出していく時間へ。そのドラマティックな展開こそ、にしながこのツアーで伝えようとしたものなのかもしれないな、と思う。どこまでいっても人はひとりだ、という孤独と、それでも人同士が繋がっていく“愛”はあるんだ、と信じる気持ち。その両方がにしなの楽曲にはある。そのどちらをも認め、自分のなかにあるものとして肯定していく――そんな、彼女が音楽をやってくるなかで見つけたあり方が、このツアーにもしっかりと投影されているのだろう。

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