にしな、変わらぬ親密な距離で届けた歌 ツアー『Feeling』最終公演NHKホールレポ

にしな、NHKホールライブレポ

 4月28日、にしなのワンマンツアー『Feeling』の最終公演が東京・NHKホールで開催された。2月から全国10会場を周ったうえで、ついにたどりついた東京・NHKホールは、にしなのワンマンライブ史上最大キャパシティの会場である。チケットはソールドアウト。たくさんのファンが集まった会場には、開演前から、彼女の登場を待ちわびる観客たちの並々ならぬ熱気が満ち溢れていた。

 オープニングナンバーは、「春一番」。そっと体を揺らすリスナーとしっかり呼吸を合わせながら、広大なホールに、しなやかでたくましい凛とした歌声を響かせていく。これまでさまざまな会場でにしなのライブを観てきたが、この日は彼女の歌に宿るスケールと深みが、NHKホールの広大な空間で響くことで今まで以上に際立っているように感じられた。続けて、「東京マーブル」へ。「ファイナル東京、元気ですか?」「2階と3階も元気ですか?」と呼びかけたにしなは、フロアから巻き起こった大きな手拍子に身を委ねながら、また、ステージの上手と下手を何度も往来しながら、一人ひとりの観客と親密なコミュニケーションを重ねていく。一昨年、昨年までと比べて会場の規模が大きくなっているのに反比例するように、にしなのライブを通して感じられる親密さはどんどん増していて、その変化は観客を信頼してマイクをフロアに託す彼女の行動にも表れていたように思う。

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 「夜間飛行」では、左手で掲げたバブルマシンで大きく弧を描きながらシャボン玉を振りまいて歌い、「ケダモノのフレンズ」では、グッズの「ケダモノのしっぽ」を腕をめいっぱい広げて振り回したり高く投げたりしながら歌う。観客も、手に持ったタオルや「ケダモノのしっぽ」を自由に回したり揺らしたりしていて、各々のスタイルでライブを楽しむ光景がとても美しかった。

 「心残りがないように燃え尽きていきたいと思います」「最後までよろしくお願いします」。そう力強く語ったのち、シリアスなナンバーを軸とした次のブロックへ。「真白」では、バンドメンバーの激情が宿ったプレイに呼応するように、切実な感傷、胸の内で否応もなく昂るエモーションのすべてを歌に託していく。「夜になって」では、青色と赤色が激しく混ざり合うライティングを受けながら、決して単色ではないアンビバレントな心情を歌にして伝えていく。にしなの声の鋭い響き、思わず息を呑むほどの気迫がびしびしと伝わってきて、彼女のライブアーティストとしての大きな進化を感じた。また、「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」では、決してアッパーなナンバーではないにもかかわらずフロアからたくさんの手が上がっていて、情熱的なダンスフィーリングを広大なホールに解き放った「透明な黒と鉄分のある赤」では、曲の終わりに並々ならぬ歓声が巻き起こっていた。あらためて、にしなと観客のライブコミュニケーションの濃さが今まで以上に高まっていると感じたし、一方で繊細な感情の機微を余すことなく「ワンルーム」でしっかりと伝え聴かせる一幕も素晴らしかった。

 今回のライブにおける特に大きなハイライトとなったのが、ツアー恒例の“箸休めタイム”で披露された最新曲「It's a piece of cake」だ。にしな曰く、この曲をライブで披露する際に大事なのは、今回のツアータイトルにもなっている“フィーリング”である。フロアから巻き起こった手拍子をひとつの軸としながら、それぞれが自由気ままに音を重ねていくバンドメンバー。演奏や歌に熱がこもると、それに呼応して観客の手拍子にも熱が入る――というように、その日、その会場だけの「It's a piece of cake」を作り上げていくことが、この“箸休めタイム”の醍醐味だ。筆者は2月に行われた恵比寿LIQUIDROOM公演も観たが、今回は余白を贅沢に活かしつつ、にしなの歌とバンドメンバーの演奏の自由さが特に際立っていた印象を受けた。その時と異なるのは、今回のNHKホール公演は「It's a piece of cake」がリリースされたあとのライブであったことだ。

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 曲の終盤、にしなは、「もう一回!」「大きい声で!」「ラスト!」と叫びながらマイクをフロアに託し、観客はその想いに応えるように歌声を重ねていく。この日限りの「It's a piece of cake」を終えたにしなは、「上手だった、ありがとう!」と叫んでいて、その時に彼女が見せた歓びと充実感に満ちたような晴れやかな表情が忘れられない。

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