にしな、ワンマン公演『虎虎』に表れた表現者としての本質 音楽を通してファンと深く繋がった夜

にしな、ワンマンライブ『虎虎』レポ

 昨年6月のZepp Tokyoでの『hatsu』以来となるにしなの東阪ワンマンライブ『虎虎』。4月2日のNHKホール大阪公演に続き、4月17日に東京・中野サンプラザホールでライブが開催された。『hatsu』からの1年弱のあいだに彼女はタイアップ曲を中心にいくつもの楽曲をリリース、表現者として大きく成長を遂げてきた。『虎虎』でのパフォーマンスは、その軌跡を振り返る意味でも、また、確実に広がっているにしなの音楽世界の現在地を確認する上でも、とても見応えのあるものになった。

 席を埋めた老若男女の観客が待ち構えるなか、青い光に照らされてステージに登場したにしな。ヘビーなギターサウンドが鳴り響き、ライブは「スローモーション」からスタートした。分厚いバンドのグルーヴが、音源とは一味違う重厚なムードを描き出す。その上で躍るにしなの歌声はむしろ軽やかで、独特のニュアンスをもった声がホールの広い空間にのびやかに広がっていく。続いてアコースティックギターに持ち替えて「真白」。曲名とは裏腹に真っ赤な照明が曲に込められた静かな激情を浮かび上がらせる。「夜になって」でも青と赤、2色のライトがステージを二分する。真ん中で歌うにしなは赤と青が混ざった紫の光に照らし出されている。演奏に加えてそうした照明演出が加わることで、にしなの楽曲の世界がよりくっきりと具現化されていく。

 エレキギターやアコースティックギターを弾きながら、あるいはハンドマイクで。さまざまなスタイルで歌うにしな。ゆったりとしたリズムが心地いい「ダーリン」に、バンドのコーラスがサウンドに厚みを加える「centi」、ハンドマイクで体を揺らしながら歌う「夜間飛行」……1曲ごとにさまざまな色を見せながらライブは進む。バンドメンバーとときおり視線を交わしながら歌うにしなの声も、曲を追うごとにどんどん表情豊かに、饒舌になっていく。それにしても、こうしてライブで観るとことさらはっきりとわかるが、にしなのボーカルのリズム感は独特だ。決して前のめりになることなく、少し後ろに寄りかかるような感じでリズムに乗り、上から下まで広い音域を滑らかに行き来する歌。声にははっきりと存在感があるのに、力んでいる感じはまったくない。さりげなくも強い意志を感じさせる、とても不思議な声だと思う。

 音源化されていない楽曲のひとつである「モモ」ではアコースティックギターでのシンプルな弾き語りも披露。歌い終えると一息つき「緊張感がありますね。呼吸しちゃいけない感じ……」と感想を一言。そんな彼女を支えるように大きな拍手が起きる。バンドメンバーを紹介し、ここで演奏されたのが「debbie」。ジャズピアニスト、ビル・エヴァンスの作品からインスパイアされた楽曲にふさわしく、繊細なピアノの音で始まり、ピアノで終わる展開のなか、切々と歌い上げるにしなの歌声がしっとりと空気を震わせていく。アコギでの弾き語りからドラマティックなダンスミュージックへと発展する「透明な黒と鉄分のある赤」、観客の手拍子とともにポップにはじけた「東京マーブル」など、にしなのディスコグラフィーの中でも明るいムードの楽曲を立て続けに披露すると、「ランデヴー」を終えてにしながおもむろに客席に語りかけた。「質問してもいいですか? にしなのライブに初めて来たよっていう人!」。さらにひとりで来た人にも挙手を促し、「にしな調べではひとりで始めて来たっていう人が多いみたいです。みんな仲良くしてね」と話すと、温かな拍手が起こる。にしな自身もどちらかといえばシャイな性格だそうで、その歌も確かにどこか独り言のような雰囲気がある。集まっているお客さんも、たとえ誰かと来ていたとしてもひとりでじっと音に耳を傾けているような雰囲気があって、それが結果的に静かな一体感を生み出している。まさににしなの音楽そのままというような光景が中野サンプラザに広がっているのだ。

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