CHAI、別れの先に出会う新しい自分 最初から最後までセルフラブの精神を貫いたラストライブを観て

CHAIラストライブレポ

 ライブのギアが切り変わったのは「クールクールビジョン」からである。ここからは尋常じゃないエネルギーで、終わりへと突き進んでいく。けたたましいサイレンの音に始まり、豪快なドラムが曲のテンションを決定づける中、カナの猛然としたギターソロが歓声を誘い、キーボードの演奏をユウキに任せたマナはハンドマイクでステージを駆け回り、〈就活 婚活 豚カツ/トリッキー トリッキー〉という言葉を叫んでいく(改めて凄い歌詞だ)。激しい、というよりも獰猛と言いたくなるような演奏で、そのボルテージのままに「ハイハイあかちゃん」に突入。長尺にアレンジされたアウトロのベースとドラムのセッションは、間違いなくこの日のハイライトである。後年このライブのことを思い出したら、きっと誰もがこの瞬間を頭に思い浮かべるだろう。それから一層強くアクセルを踏んだように「END」「N.E.O.」と突き抜けていく。ここの数曲にはフレンチエレクトロとパンクを混ぜ合わせたような熱狂的なテンションがあり、こうした会場を丸呑みにするようなエナジーこそがCHAIなのだ。曲に込めた確固たるメッセージを支え続けたのは、何においてもこの4人のタフで強烈な演奏だった。このアンサンブルがあったからこそ、CHAIの音楽は言葉だけでは届かない距離にまで飛んだのだろうし、心の深いところにまで刺さったのだろう。

 あっという間にあと2曲である。メロウな音色に相俟ってか、「Donuts Mind If I Do」には幾らかの寂寞感があったように思う。そして本編最後の「フューチャー」は、おおらかながらも情熱を感じる演奏で、マナとカナのハモリも風に乗って吹き抜けていくような心地よさがあった。

 アンコールでは「ほれちゃった」を歌い、メンバーそれぞれが自分の言葉でCHAIの活動を振り返り、今の気持ちを伝えていく。「楽しいときも、悲しいときも、ちょっと自分のことが嫌いだと思うときも、それでも自分100%でいいんだっていうのがCHAIで伝えたかったこと」というユウキの言葉は、中でも象徴的なコメントだったと思う。自分を肯定することで見える景色が変わること、それがCHAIの音楽を通して伝えてきたメッセージなのだ。そして、そう思うとなおさら「sayonara complex」は良いタイトルだったと思う。別れることで出会うのである。新しい自分、新しい他者、新しい世界に。それはまさに世界中を巡って音楽を届けてきたCHAIのキャリアがそうであったように。だからこそ、やはりこの日はみんなの門出なのだろう。

 サプライズのダブルアンコールでは初期の代表曲「ぎゃらんぶー」でブーイングしながら終わり! かと思いきや、もう一度ステージに現れた4人がこの日二度目の「N.E.O.」を披露し大団円。マナが客席まで駆け出して歌っていたのが印象的だ。ニュー・エキサイト・オンナバンド CHAI。最初から鮮烈で、最後まで最強のバンドだった。

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