『ソニックシンフォニー』オーケストラ×ロックバンドによる熱狂のステージ ワールドツアー東京公演を目撃

『ソニックシンフォニー』東京公演を観て

 2月11日、『Sonic Symphony World Tour』(以下、『ソニックシンフォニー』)の東京公演がLINE CUBE SHIBUYAにて行われた。シリーズ歴代のゲーム映像がバックスクリーンに流れ、ステージ上ではオーケストラとロックバンドが圧巻のパフォーマンスを繰り広げる。この公演はこれまでにロンドンやアメリカの各都市、ブラジルを回り、行く先々でオーディエンスを沸かせてきた。『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』は、文字通り世界中で愛されている。

 事実、この日の会場も極めてインターナショナルな空間が広がっており、さまざまな国からたくさんの人々が足を運んでいた。筆者が開演前に会場で会った男性はアメリカから来ており、歴代のソニックの思い出を語り合った。どうやら彼とは同世代らしく、『ソニックアドベンチャー2』の「チャオガーデン」でチャオの育成に精を出した少年時代の記憶が共通していた。

 30年以上も歴史があると、そういったコミュニティがそこかしこに生まれるものだ。ソニックのスカジャンやトートバッグを身に着けた老若男女が、青きハリネズミを通じて一堂に会した。彼が30年以上走り続けてくれたおかげで、我々はここにいられる。

 今回のライブは盤石の布陣によって構成された。アメリカを拠点に活動するプロデューサー/作編曲家/ギタリストの仲間将太(以下、Shota)が総合プロデューサーを務め、アメリカからリードボーカルとしてエイドリアン・コーワン、ベースにルイス・A・オチョア、キーボードにデレク・デュプイ、ドラムにブレイズ・コラードが招かれ、それぞれのパートでスペシャリストとして君臨。さらに沢頭岳、Kinami、Yumi Hiroseがコーラスラインを形成した。オーケストラには東京フィルハーモニー交響楽団、指揮をゲームやアニメの楽曲を演奏するコンサートなど数多くのコンサートでもタクトを振るう栗田博文が務める。そして、『ソニック』シリーズサウンドディレクターの瀬上純と大谷智哉がゲストアーティストとしてギターとベースを奏でる。

 第1部は、オーケストラのみで演奏が行われた。DREAMS COME TRUEの中村正人が作曲した『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のタイトルトラックに始まり、「Green Hill Zone」に繋がる。「原点にして最高峰」とか、「初っ端からクライマックス」という言葉が頭に浮かぶ。圧倒的なオーケストレーションで聴くこの曲は、メガドライブ版の音源とはまた別の音世界へ我々を連れて行ってくれた。しかし、スクリーンで流れる初代『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の映像も相まって、同時に強烈なノスタルジーも感じてしまう。ソニックがオブジェクトにぶつかってリングを落としてしまう場面などは、反射的に体が動いてしまった。そればかりか、手に持っていたスマホをコントローラーの形に握り直しそうだった。そして、その緊張感は映像の内容が移り変わっても変わらない。

 開幕から少し経ち、曲間でShota、瀬上氏、大谷氏の3人がステージ下手に現れた。東京フィルハーモニー交響楽団を紹介し、『ソニックシンフォニー』が世界各地をまわっていることに触れると、Shotaが「東京公演を(ワールドツアーのなかで)いちばん盛り上げたい」と今回のライブに対する思いを熱く語った。『ソニックシンフォニー』のSNSアカウントが伝える各地の公演の模様を筆者も逐一チェックしていたが、ワシントンやアトランタのオーディエンスの熱狂ぶりは特に凄まじかった。ある意味ではプレッシャーを感じたものだが、東京の客席も大いに沸いていた。

 筆者の思春期を彩ってくれた『Believe in Myself』や「It Doesn't Matter」のシンフォニックな響きに勇気をもらい、「Chao Garden」の愛くるしさ(映像含む)に悶えた。大谷氏は「今こんなかわいい曲が作れるかどうか(笑)」とMCで語っていたが、そのかわいさによって少年少女時代にひたすら卵からチャオを孵す日々を送った人間がいる。筆者も含め、この日の会場には国を隔てて少なくとも2人存在した――。その後は「Rooftop Run」、「Aquarium Park 〜 Planet Wisp」と続き、「Sonic Frontiers Medley」で第1部のフィナーレを迎えたのだった。

 そして、休憩を挟んだのちにロックバンドが登場。先述のメンバーがステージへ姿を現し、『シャドウ・ザ・ヘッジホッグ』の主題歌「I Am... All Of Me」を皮切りにド級のロックショーを展開した。後ろで流れるシャドウの映像と共に、ソリッドなギターがかき鳴らされる。以降も瀬上氏のバンド Crush 40の名曲が連発されていく。「What I'm Made Of…」、「Open Your Heart」、「Knight of the Wind」が立て続けに披露され、オーディエンスはノンストップで瀬上節を堪能できた。特に、「Knight of the Wind」は会場のギアをひとつ上げ、ひと際大きなシンガロングが巻き起こっていたように思う。その後、ボーカルのエイドリアンが一度舞台袖に下がり、昨年10月に発売されたシリーズ最新作『ソニックスーパースターズ』から「Sonic Superstars Opening Theme」が演奏され、インストの曲ながらまるでギターとストリングスが歌を歌っているかのようだった。途中に挟まれる瀬上氏のソロギターを含め、“弦”が極めて雄弁に響く。

仲間将太

 そこから瀬上氏と入れ替わる形で大谷氏が登場。2006年に発売された『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』(通称:新ソニ)のメインテーマソング「His World」が演奏され、またさらに会場のボルテージが上がっていく。さすがにアメリカ公演のようにラップパートを全員で大合唱とはいかなかったが、筆者の周りのオーディエンスはパッションで歌いきっていた。

瀬上純
大谷智哉

 で、その次に演奏されたのが「Reach For The Stars」。大谷氏が「星をつかむ準備はできていますか?」と問いかけた時点で、会場にいるほぼ全員が何を意味するのかがわかるのだから、やはりソニックの歴史は深く厚い。そして――これはやや主観的な言い方になるが――リリックとMCで使われている言語が異なると、こういった“匂わせ”にも深みが出ることがわかった。「星をつかむ準備」とひとつ言語のフィルターを挟むことで、曲に辿り着くまでの奥行きが生まれている気がする。たとえば、このあとエイドリアンが「Let me feel more undefeatable!」と言って、「Undefeatable」が演奏されたわけだが、それとはまた別の面白さがあったような気がする。

 「Reach For The Stars」に限らず、個人的にひとつ誤解していたことがある。この曲でShotaのソロパートが披露されたのだが、途轍もなくギターのスキルが高い。プロデューサーの肩書きに引っ張られていたが、彼はギタリストとしての腕も一級品だ。もちろん「意外にも」と言いたいわけではない。「きっとこれぐらいの実力だろう」という高めに設定された基準値を、6段階ぐらい超えてきた感覚がある。

 そして、それは今回アメリカから招聘されたバンドメンバー全員にも言えよう。「Break Through It All」で、我々は曲が輝き出す瞬間に立ち会った。その立役者は、ボーカリストのエイドリアンである。グロウルやスクリームを巧みに操り、〈No more compromise/This is do or die〉というリリックに強烈な説得力をもたせる。ドロドロとした情念がこの曲からほとばしっていた。

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