連載『lit!』第90回:The Last Dinner Partyからビヨンセまで、2024年のムードが早くも感じられる新作5選
ケイシー・マスグレイヴス「Deeper Well」(US/カントリーポップ)
モーガン・ウォーレンの大ヒットが象徴するように、現在のメインストリームにおいて特に大きな存在感を発揮しているカントリー。(次に紹介する楽曲も相まって)今年はそのムーブメントがさらに大きくなっていくことが予想されるが、その中でも(良い意味で)喧騒に左右されることなく、自分だけの個人的な物語を紡ごうとしているのが、カントリーの枠を超えて多くのシンガーソングライター好きを魅了し続けているケイシー・マスグレイヴスだ。〈Took a long time, but I learned / There's two kinds of people, one is a giver / And one's always tryin' to take /All they can take(長い時間がかかったけれど、私は学んだ / 世の中には二種類の人がいて、片方は与えてくれるけれど / もう片方はいつも奪おうとする / 奪えるだけ奪うんだ)〉というラインが強い印象を与える「Deeper Well」は、心地よい眠りを想起させるような音像の中で“手放すこと”について描かれた、シンプルで美しく、まさにモダンカントリーの魅力に浸るのにぴったりの名曲である。来月リリース予定の最新作への期待も膨らむばかりだ。
ビヨンセ「TEXAS HOLD'EM」(US/カントリーポップ)
今、カントリーについて触れるのであれば、この曲を避けて通ることは不可能だろう。ハウスミュージックを基軸とした『Renaissance』に続くビヨンセの新作(通称『Act II』)のリードシングルがカントリーであると知った時にはさすがに驚いてしまったが、漂白されたブラックミュージック/カルチャーを再び取り戻し、自身のルーツでもある先人たちの功績を称えることに「Renaissance」という言葉の意図があると考えれば、それはむしろ自然な流れでもある。「16 CARRIAGES」と同時にリリースされた本楽曲は、リアノン・ギデンズが奏でる軽快なバンジョーの音色や親しみ深いコーラスの掛け合いも相まって、よりルーツカントリーを想起させる仕上がりとなっており、まさに前作における「BREAK MY SOUL」に近い位置づけであることが予想される。かつて、2016年にビヨンセが発表した「Daddy Lessons」が(保守層を中心に)議論を生み出していたが、恐らくこの先に待つ光景は当時の比ではないだろう。だが、それこそが今のビヨンセがやろうとしていることなのだ。
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