ブルーノ・マーズ、ファンクの渦でドームを満たした極上体験 前回を超える日本愛も大爆発
2022年秋に開催1カ月前というタイミングでアナウンスされたにも関わらず、5日間のドーム公演をソールドアウトさせるという驚異的な記録を成し遂げたブルーノ・マーズが、今度は7日間の東京ドーム公演というサプライズを携えて再び日本に帰ってきた。やはり今回も見事に全公演・約35万枚ものチケットをソールドアウトさせたブルーノだが、もしかしたらこの記録はこれからもまだまだ伸びていくのではないか、あるいはブルーノ自身もまだまだ高みを目指していくのではないかという感覚を抱いてしまうのは、おそらく筆者だけではないだろう。前回と今回、いや、今回の来日公演を観ただけでも、少なくとも周りの誰かに「ブルーノ・マーズのライブはすごい!」と夢中で感想を話してしまっただろうし、SNSの反響を見ているだけでも、「観てみたい」と感じる人々がまだまだ増えているのを実感することができる。
先に結論から書くと、今回の来日公演は大枠において前回の内容から大きな変化があるというわけではなく、このライブレポートに関しても、ある意味では前回時のレポート(※1)の続編のようなところがあるかもしれない。だが、そのステージを観て改めて痛感したのは、ブルーノ・マーズというアーティストが作り上げるエンターテインメントの圧倒的な強度と、それがいかに見事なバランス感覚の元に成立しているのかというプロフェッショナルの凄みである。本稿では1月18日公演の模様をお届けする。
新年の幕開けをド派手な花火とファンクポップで彩るオープニング
約1年ぶりという海外アーティストとしては比較的短めのスパンでの来日となるブルーノ・マーズだが、もちろん前回と比較してその熱気が薄まることはない。客席にはさまざまな年齢層の観客が集まり、色々な場所で今回のツアー用に制作されたグッズや、ハローキティとのコラボグッズ(前回の来日時に何度も見せてくれたダブルピース姿をフィーチャーしているのが微笑ましい)を身にまといながら、本日の主役の登場を待ち望んでいる。周囲の会話を聞いていると、すでにこれまでの公演に足を運んでいるという熱心なファンや、これが初めてというファンの声が聞こえてくるが、開演時間からそれほど間を置くことなく会場が暗転を迎えた瞬間に、そうした声は全て凄まじい歓声へと変わっていった。
前回の来日公演ではエモーショナルな「Moonshine」でしっとりとライブを始めていたのが印象的だったが、今回はあの「Tonight~」のフレーズが会場に響き渡り、カーテン越しに立つMCがパーティの幕開けを告げ、会場全体を「待ってました!」と言わんばかりのポジティブなムードが満たしていく。そしてドラムの4カウントとともにカーテンが降ろされると、そこには開幕から爆音の花火をバックに軽快に「24K Magic」を披露するブルーノとバンドメンバーたちの姿が。この一瞬で会場の盛り上がりは一気にピークへと到達したのだが、そんな熱気(と花火の爆音)を前に一切物怖じすることなく、悠々と身体のさまざまな場所から巨大なファンクエネルギーを放出していくブルーノの姿に、その熱気はさらに上昇していく。その堂々ぶりたるや、これで本公演5日目だとはまったく思えないほどで、むしろ程良くリラックスしているのではないかと感じてしまうくらいである。また、心なしか前回よりも火薬の量が増えているようで、どこを切り取っても新年を彩るのに相応しい最高のオープニングだ。
瞬く間に会場をファンクの興奮へと誘ったブルーノだが、楽曲を終えると一転してロマンティックなピアノの演奏が彩るしっとりとしたムードに。スポットライトに照らされたブルーノは「1、2、3、4……5!」と日本語で公演数を数え、この日のライブがツアー全体で5回目の公演であることと、これまでの公演の中で最も歓声や合唱が大きなショーであることを伝え、オーディエンスへの感謝を示す(「絶対に毎日言ってるだろう!」と心の中でツッコミつつも、バンドメンバーにも「信じられるかい?」と思わせぶりに尋ねてみせるのがチャーミングだ)。そうした真摯な想いに観客が大歓声で応えると、今度は「踊ったり、歌ったり、出せる限りの大声を出してくれる姿が見たいんだ! いいかい?」と尋ね、信頼に満ちた一体感のあるムードの中に、鮮やかに「Finesse」の軽快なドラムのイントロが響き渡る。あまりにも強靭なグルーヴとともに輝くファンクサウンドに、真冬にも関わらず汗だくになるくらい身体が動いてしまうのだが、カラフルなライトに照らされながら美しい旋律をエモーショナルに歌い上げたり、サビでセクシー&クールなダンスを華麗に披露するブルーノの姿からも目が離せないし、当然のようにバンドメンバーのテクニックもとんでもないことになっているため、ボディだけではなく頭も大忙しだ(後半のブレイクパートの興奮といったら!)。
さらに、ブラウン管風のスクリーン演出も相まって、まさに70年代の音楽番組がそのまま再現されたかのような「Treasure」では、イントロでホーンセクションがゴージャスに空間を彩り、MCがこれ以上ないほどに観客をアゲ倒し、フロアの熱狂がピークに達したところで軽やかに本編へと飛び込んでいく。ブルーノらしい緩急のバランスと、オーディエンスのブルーノへの愛が見事なグルーヴを作り上げており、ドームとは思えないほどの親密さに満ちた空気間が会場全体に広がっていく。
変わらないフォーマットでも、むしろ高まる満足度
ところで、実はここまでの「24K Magic」から「Treasure」までの3曲は前回の来日公演とまったく同じ流れである。さらに、筆者の記憶が正しければ演出周りに関しても前回から大きな違いはない。これはライブ全体についても同様で、数曲程度の変動はあれど、セットリストの大まかな流れや各楽曲の演出は(後述するピアノ弾き語りコーナーも含めて)基本的に前回のものと同様だ(さらに言えばベースは2017年から2018年にかけて行われた『24K Magic World Tour』の頃から変わっていない)。直近で特に新作がリリースされたわけではないことを踏まえると、当たり前といえば当たり前である。
では、「前回と同じような内容だから満足度が下がるのか?」と聞かれたら、そんなわけがない。大前提として前回の公演に足を運んでいない人は大勢いるわけで、一度観ている立場としても、前述の通りパフォーマンスの一つひとつの情報量が途轍もないため、観るたびに新たな発見や驚きなどを感じることができる(前回も参加し、今回のツアーにも複数公演参加した熱狂的なファンである知人も、公演ごとの変化に心を踊らせながら全てのライブを全力で楽しんでいた)。そもそも、あのファンクの快楽の洪水とも言うべき「Perm」に飽きる日が来ることなどあるのだろうか?
とはいえ、前回の内容を踏まえてしっかりとアップデートを施してくるのもブルーノ・マーズというアーティストの凄みである。「Chunky」では(前回の公演にはなかった)原曲のフレーズを〈Japanese Girls Get Up〉に置き換えることでさらに観客をブチ上げてみせたり、スタンドマイクを使った鮮やかな動きで魅了する「That’s What I Like」では投げ込まれたハローキティのコラボタオルで汗を拭いたり、振り付けにダブルピースを取り入れたり、歌詞の一部を〈Kawaii〉に置き換えたりしてしまう。そして、その全てが単なるその場での思いつきのようなものではなく、しっかりとしたパフォーマンスの一部として組み込まれているのだ。完成形を構築した上で、観客のリアクションを踏まえながら、元々の魅力が崩れることがないように慎重かつ大胆にチューニングが行われているのである。