ノエル・ギャラガー、充実の現在地を示した4年ぶり来日ツアー Oasis楽曲には新たな輝きも

ノエル・ギャラガー、4年ぶり来日レポ

 今年の夏に『SUMMER SONIC 2023』で来日したリアム・ギャラガーがソロキャリアのピークを更新するような圧巻のパフォーマンスを披露してから約4カ月、今度はノエル・ギャラガーが「俺だぜ(It is I.)」という言葉とともに約4年ぶりの来日ツアーで日本に上陸した。

 本稿では、12月1日から6日にかけて全国で4公演が開催された『Noel Gallagher's High Flying Birds JAPAN TOUR 2023』の初日となる東京ガーデンシアターでの模様をお届けする。

サイケデリックな開放感で魅せる最新モード

 学生時代にOasisの解散をリアルタイムで経験した筆者は、同バンドの楽曲に魅了されたのは大前提として、それ以上にリアム・ギャラガーとノエル・ギャラガーという二人のミュージシャンが別々に辿るソロキャリアの方が、実際に接したり、思い入れを抱いている期間は遥かに長い。そうした立場の身にとって、ともにキャリアハイを更新している「今の」リアムとノエルのパフォーマンスを日本で見ることができたのは、それだけでとても嬉しいことだ。

 今年のリアムの来日公演では、スタジアムで炸裂する「あの声」を起点とした強烈なサイケデリックなグルーヴを期待して会場に足を運び、想像以上のスケールでその興奮を味わうことができたのだが、今回のノエルの来日公演(恥ずかしながら彼のライブを見るのはこれが初めてだ)に対して筆者が期待していたのは、最新作『Council Skies』(2023年)におけるミニマルとすら言えるダンスミュージックのサイケデリックな高揚感である。開幕から最新作の楽曲が次々と披露されたこの日のライブでは、まさにそうした「今のノエル」の魅力を存分に味わうことができた。

 ジョゼップ・グアルディオラ(ノエルが愛してやまないマンチェスター・シティの監督)の等身大パネルがステージ上から見守る中、「Pretty Boy」のリズムトラックとともにリラックスした面持ちでステージへと歩いていくNoel Gallagher's High Flying Birdsのメンバーたち。ゆったりとビートに身を委ねながら自然体のノエルがそっと歌い始めると、自身が奏でる美しいアコースティックギターのストロークに、ゲム・アーチャー(Gt)の繊細なアルペジオとマイク・ロウ(Key)らの優しいキーボードの音色がそっと彩りを添え、ラッセル・プリチャード(Ba)の力強いベースとジェシカ・グリーンフィールド(Key/Cho)の歌声とともに心地良いグルーヴが徐々にうねりを上げていく。ビートが打ち込みからクリス・シャーロック(Dr)のドラムへと切り替わると、そのグルーヴは見事な覚醒を遂げ、ノエルの軽快な「Yeah,  yeah」という声とともに会場中を瞬く間にサイケデリックの坩堝へと誘う。原曲におけるミニマルな反復が生み出す緊張感とどこかリラックスしたムードが生み出す絶妙なバランスはライブでも見事に炸裂しており、ステージ上ではメンバーが合間に水を飲んだりとのびのびしているのにも関わらず、そこには確かなダンスミュージックのグルーヴがあり、ぐいぐいと観客を引き込んでいく。

 特に存在感を発揮していたのはクリスが打ち鳴らすアグレッシブなビートで、続く「Council Skies」ではスティックを上空に放り投げてキャッチする芸当を見せながら、原曲の持つサイケデリックな高揚感を力強いドラミングによって圧倒的なスケールに増幅させていく。グルーヴの中心で響くノエルの歌声も絶好調で、反復を続けながら増幅していく壮大なサウンドスケープと、まるでそこだけが取り残されているかのような孤独を感じさせるボーカルのコントラストがあまりにも美しい。冒頭の2曲で完全に会場を掌握したバンドは、続く「Open The Door, See What You Find」と「We're Gonna Get There In The End」という60年代のサイケデリックロックの影響を色濃く感じさせる2曲によって、当時のムードを想起させるような高揚感のあるVJとともに鮮やかな開放感を作り上げていく。その中心にあるのは、やはりノエル自身の歌声と、バンド全体を引っ張るほどに力強く、それでいて主張しすぎることのない美しいアコースティックギターの音色だ。最新作のパートを締めくくる「Easy Now」で見せた、アコースティックバラードを起点に壮大なサイケデリアへと果てしなく広がっていく凄まじい音像は、まさに充実したソロキャリアを重ねる今のノエルの真骨頂を示していたように感じられた。

今と地続きなものとして演奏された歴代ソロ曲たち

 熱狂するオーディエンスを前にあくまで冷静さと穏やかさを貫くノエルは、「ここからは古い曲も」と軽い調子で語り、前作以前の楽曲へと遡っていく。「You Know We Can't Go Back」ではこれまでのムードから一転して、ギターをエレキに持ち替えたノエルを中心にUKロックの楽しさを詰め込んだかのような疾走感とポジティブなムードに満ちたバンドサウンドが炸裂。最高の音色とともに軽やかに空間を貫くゲムのギターソロも絶品だ。

 また、個人的に驚かされたのがVJのクオリティの高さであり、特に「We're on Our Way Now」で投影されたサイケデリックで色鮮やかな、過去へのリスペクトを強く感じさせる映像は、自身のルーツを想起させながらも一切古さを感じさせない見事な仕上がりだった。ふと、今年の『SUMMER SONIC』で観たBlurやリアム・ギャラガーのVJも素晴らしいものだったことを思い出し、きっと楽曲だけではなく、そのクリエイティブにおけるセンスの高さもまた、彼らが今なお様々な世代に愛され続ける理由なのだろうと考えさせられた(この日は20代と思われる若い観客も多数会場に集まっていた)。

 そんな感慨に耽っていると、「In The Heat Of The Moment」のキレのあるロックサウンドが身体を大きく揺さぶる。キャリア随一のアップテンポな高揚感を誇る本楽曲ではいよいよクリスのアグレッシブ度合いも(良い意味で)手がつけられないものとなっており、サビに入るごとに上空にスティックを放り投げるという始末だ。その姿を見て笑いながら、一緒にコーラスをシンガロングしていると、頼もしいリリックも相まって、自分の中にも大きなエネルギーが湧いてくるのを感じられる。

 そうした流れを経て、ライブもいよいよ折り返し地点。1stアルバムから続けて披露された「If I Had a Gun…」と「AKA… What a Life!」では、美しいロックバラードと、レイヴからの影響をも想起させるダンスミュージックという、一見すると対称的にも思える2曲が見事に地続きのものとして堂々と鳴り響き、ソロキャリアの見事な歩みを改めて実感させられる。だが、それ以上にノエル・ギャラガーというアーティストの姿が最も剥き出しの形で表れていたのが、前半パートの最後に、自身の弾き語りとピアノの音色のみで、水面の上に浮かぶ満月の映像をバックに披露された「Dead In The Water」だろう。あまりにも切実でピュアな言葉とメロディがステージの中心からそっと鳴り響くその光景は、この日のパフォーマンスにおける最もパーソナルな瞬間であり、最も美しいものでもあった。そこにある輝きはあまりにも普遍的なものであり、それを知っているからこそ、ノエルは今でも変わらずに歌い続けているのかもしれない。

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