連載『lit!』第54回:Foo Fighters、ノエル・ギャラガー、blur……音楽シーンにインパクト残し続けるベテラン勢の充実作

 世界の音楽市場売上は2022年に8年連続プラス成長を記録した(※1)。アナログレコードのブームやライブ興行がコロナ前の水準に回復しつつあること、そして何より音楽ストリーミングサービスのサブスク登録者数の伸びが全体の成長を牽引している。日本でもストリーミングによる売上が音楽配信売上の9割を超え、スタンダードなものとなりつつある。しかし、実際にストリーミングで聴かれているのは大半が過去の楽曲であるという統計もある。確かに、これは全米/全英チャートを見ても明らかだ。近年はボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンが自身の楽曲の権利を売却したことが話題になったが、それはストリーミングサービスにより過去作品へのアクセスのしやすさが格段に向上したことで幅広い世代に改めて聴かれるようになり、その価値が再認識されたことと無関係ではないだろう。ちなみに2022年エンタメ界で最も利益を上げたのは往年のプログレバンド、Genesisである(※2)。

 今回は近年登場した新たな才能についてはもちろん、そんな目まぐるしい変化をくぐり抜けながら精力的に活動を続け、今なお現役世代として活躍するバンドにも光を当ててみたい。特に2023年上半期は大物ミュージシャンの訃報が相次いだ。できれば優れた作品は本人が生きているうちに耳を傾けておきたいものだ。

Foo Fighters - Under You (Lyric Video)

 1994年から活動を続ける米国のロックバンド・Foo Fightersは11枚目のオリジナルアルバム『But Here We Are』で、通算6作目となる全英チャート初登場1位を獲得した(米国では初登場8位)。昨年亡くなったバンドメンバーのテイラー・ホーキンス(Dr)と、デイヴ・グロール(Vo/Gt)の母ヴァージニアに捧げられた作品だという。本作のドラムはデイヴが自ら叩いている。アルバム冒頭を飾る「Rescued」や2曲目「Under You」を始めとして、明らかに死を悼む内容が全体を占めるが、その多くは快活でストレートなパワーポップに仕上がっている。しかし、仲間の死から決して立ち直ったわけではないことは、歌詞からもアルバムタイトルからも痛切に伝わってくる。

 他にも、ドリームポップ〜シューゲイズ的な展開の「Show Me How」や、10分を超える壮大な「The Teacher」など、30年近くにも及ぶキャリアながら新境地も切り拓いた意欲作だ。アルバムを締めくくるデイヴの弾き語り曲「Rest」は、率直な弔いの歌である。Foo Fighters立ち上げの経緯も含め、様々な喪失を経てもなお、大文字の“ロックバンド”であり続け、常に最前線に立ち続ける彼が歌うからこそ強い説得力を持つ。『FUJI ROCK FESTIVAL '23』でヘッドライナーを務める新たなFoo Fightersのステージを目撃したい。

Noel Gallagher's High Flying Birds - Dead To The World (Official Lyric Video)

 一方、Foo Fightersが全英1位を獲得したことで、ノエル・ギャラガーはOasis時代のアルバムも含め29年間続いた全英チャート初登場1位の連続獲得記録を失うこととなった。無論チャートが全てではないが、僅差であったとはいえ驚きの結果である。最新作『Council Skies』は、Noel Gallagher's High Flying Birdsのオリジナルアルバムとしては約5年半ぶり。前作『Who Built the Moon?』までのサイケデリックな作風は後退し、本作は主にアコースティックギターとストリングスで構成されている。シンプルな印象を受けると同時にノエル・ギャラガーらしい曲が揃っている。この「原点回帰」は、パンデミックの最中に制作されたことも影響しているようだ。中でも3曲目「Dead To The World」のどこかメランコリックな雰囲気は、Oasisの「Half The World Away」や「Talk Tonight」といった初期の名曲を思わせる。今年は弟のリアム・ギャラガーの来日公演が予定されているが、ノエルも12月に単独での来日公演が予定されている。

Blur - The Narcissist (Official Visualiser)

 90年代ブリットポップ旋風を巻き起こしたblurも新曲「The Narcissist」をリリースした。『The Magic Whip』以来8年ぶりの新作アルバムとなる『The Ballad of Darren』からのリードシングルだ。デーモン・アルバーン(Vo)曰く、アルバムは「今の自分たちが反映され、書かれているレコードだ」とのこと(※3)。他のメンバーのコメントも揃って抽象的だが、共通するのは「キャリアを重ねてきたバンドだからこそ作れたレコードである」と主張している点だろうか。確かに新曲は実に落ち着いていて、派手さはあまりない。でもこれが本人たちにしか出せない等身大の円熟味なのかもしれない。そう考えるとジャケット写真の曇り空も英国のありのままを映しているようで示唆的だ。様々な世代が彼らの姿を目撃することになる『SUMMER SONIC '23』のヘッドライナーとしてのステージにも期待がかかる。

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