連載「lit!」第78回:タイラ、リル・ウージー・ヴァート……直近の新曲から拾い上げる2023年注目トピック
本連載ではたびたび触れているが、ラテンミュージックの勢いが止まらない。現在世界最大のポップスター、バッド・バニーがラテンの歴史を背負って立った『コーチェラ』でのステージは歴史的瞬間だった。一方、ラテンミュージックの中では今年は女性の活躍も目立った。その中でも注目すべき一人がカロル・Gだ。全編スペイン語詞のアルバムを女性として初めて全米チャート1位に送り込み、『ロラパルーザ』で女性のラテンアーティストとしては初めてヘッドライナーを務めた。そんな彼女と同じくコロンビア出身のシンガーソングライターのカリ・ウチスがタッグを組んでシングル「Labios Mordidos」をリリースした。カリ・ウチスの来年リリース予定の全編スペイン語アルバムからの先行曲である。レゲトンのリズムと郷愁に駆られるようなギター、そしてルーツ・レゲエへのリスペクトも感じさせるような素晴らしいビートがクセになる良曲だ。なお、カロルは12月からラテンアメリカを横断するツアーを開始し、ヨーロッパ公演も開催予定だ。
一方、同じくラテンポップ界で最注目のアーティスト、ロザリアはビョークとのコラボ曲「Oral」をリリースした。ユニークで知的なアプローチを積み重ねてきた点で相通ずるものがある両者の初となるコラボだ。ロザリアは今最も実験精神に溢れたラテンアーティストであるし、ビョークは言わずもがな常に人類の一歩二歩先を行き、ときにリスナーを置いてけぼりにするほど先進的なアーティストである。必然ともいえるこのコラボ曲は、ビョークが90年代後半にレコーディングしたものであるらしい。『Homogenic』(1997年)や『Vespertine』(2001年)といった実験精神溢れる作風に合わなかったというのもある意味納得のポップさで、響き渡る壮麗なストリングスは2人の時代を超えた邂逅を言祝ぐようだ。力強いレゲトンのビートも曲にメリハリをつける役割を担っており、見事に現代のポップソングとして成立している。
「Oral」のMVを再生してみると、この曲がチャリティソングであることが明示される。収益はビョークの故郷であるアイスランドの野生のサケを守るための支援金となるそうだ。この曲が直接的に環境保護を歌ったわけではないが、いかにもビョークらしい試みである。MVではロザリアとビョークの2人が空手のような組み手を披露している。その人を食ったような唐突なパフォーマンスも彼女らの独特な魅力なのだ。
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