連載「lit!」第48回:ロラパルーザ、コーチェラ……活気づく世界の音楽フェス 開催地やラインナップで進む非英語圏へのアプローチ

 2023年も3分の1が過ぎた。世界中の音楽フェスティバルが続々と今年のラインナップを発表し、中にはすでに開催されたものもある。例えばシカゴ発のフェスで南米やヨーロッパにも進出している『Lollapalooza』(以下『ロラパルーザ』)や、マイアミ発世界最大級のヒップホップフェス『Rolling Loud』(以下『ローリング・ラウド』)などの米国発の巨大フェスの一部の南米公演などである。他にも代表的なのがカリフォルニア州インディオのコーチェラバレーで4月中旬に開催された『Coachella Valley Music and Arts Festival』(以下、『コーチェラ』)だろう。今年の『コーチェラ』は6つのステージがYouTubeで配信され、日本でもSNSを中心に大きな話題となった。

 中でも筆者が感銘を受けたのがboygeniusによるパフォーマンスである。boygeniusはフィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダッカスの3人組だ。2018年のデビューEP『boygenius』以降は長らくトリオとしての活動はなかったが、それぞれソロで優れたアルバムをリリースし、知名度と実力を格段に高めた。3月末には満を持して初のフルアルバム『the record』をInterscope  Recordsからリリースし、全英1位、全米4位を獲得。正真正銘の大復活を遂げた。『コーチェラ』では1日目のインディポップトリオ・MUNAのステージに、フィービーがコラボした曲「Silk Chiffon」を歌いに全員で飛び入り参加する場面もあった。彼女らの人気はその際の凄まじい大歓声からも分かる。

MUNA - ft. boygenius - Silk Chiffon - Live at Coachella 2023

 翌日のboygeniusのステージは、スーツ姿の3人が1つのマイクに集まり、アルバム冒頭を飾る「Without You Without Them」からスタート。セットリストの大半を占めた最新作は、イントロだけで誰の曲かが分かるほどに三者三様の楽曲が収められている。本作のハイライトである「Not Strong Enough」は最もバンドのシナジーが発揮された楽曲だ。それぞれのスタイルとボーカルが1曲の中に詰め込まれていながら複雑な聴き心地ではなく、いたってポップな意匠が施されている。2023年屈指の名曲と言っていいだろう。このバランスが成立しているのは、彼女らが価値観を共有し、強い友情で結ばれていることと無関係ではないはずだ。3人で遊び尽くすMVも微笑ましく、その上カッコいい音楽をやっている姿には素直に憧れを抱いてしまう。

boygenius – Not Strong Enough (official music video)

 8月にシカゴで開催される『ロラパルーザ』でヘッドライナーを務めるラナ・デル・レイは、9作目となるアルバム『Did You Know That There's a Tunnel Under Ocean Blvd』をリリースした。アルバム全体としては、語りとも囁きとも取れる絶妙な歌唱と、ヒップホップからの影響も色濃いトラックが完璧に融合しており、この類を見ない作風には驚くほかない。特に7分超の「A&W」ではそのアバンギャルドな音楽性が炸裂しているが、セールス面では全米3位、全英1位と良好である。素直にポップとは言い難い音楽性でこれほどまでの支持を得られる作家はラナ以外には稀有だろう。一方、ピアノとストリングスによるドリーミーなサウンドも健在で、表題曲のうっとりするようなメロディは特に前作『Blue Banisters』と地続きだ。

Lana Del Rey - Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd (Audio)

 ダークな世界観でカルト的な支持を得るメラニー・マルティネスは、3月の南米開催の『ロラパルーザ』に出演後、3作目のアルバム『Portals』をリリースした。冒頭の「DEATH」は前々作『Cry Baby』と連関しており、MVでは前作までのペルソナ「Cry Baby」の死から復活するというコンセプトが表現されている。アルバムは自身最高位の全米2位を獲得しており、曲単位では全米チャートに2012年ぶりにランクインした。

Melanie Martinez - DEATH (Official Music Video)

 カリフォルニアで開催された『ローリング・ラウド』に出演したニュージャージー出身のラッパー、コイ・リレイは「Players」が大ヒット中だ。この曲はヒップホップ史における最重要曲のひとつGrandmaster Flash & the Furious Five「The Message」のビートをほぼそのまま使い、ノトーリアス・B.I.G.の名曲「Juicy」からの引用もある大胆な楽曲だ。〈‘cause girls is players too(女子だって遊び人だから)〉というラインは、男性が金と同じように女性を自慢のための道具のように扱う構図を反転させるものであり、それをこのビート上でラップするからこそ挑発的で痛快なのだ。MVではジャージークラブのリズムでのリミックスが使用されており、ヒップホップ誕生50周年という節目においても様々な意味で意義深い一曲。

Coi Leray - Players (DJ Smallz 732 - Jersey Club Remix)

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